猫は世界の成り立ちを知る
申し訳ないですが、今回はかなり手抜きです。
世界の成り立ちの部分は、『どうやら僕の心臓は賢者の石らしい』から抜粋なので、そちらをお読みになっている方は読み飛ばして下さい。
「…か、神が、地球に住んでいたって? そ、それは本当なのか?」
驚愕が醒めやらぬまま、子猫は声を絞り出すようにして"好奇心の女神"に尋ねた。
『ええ、本当ですよ』
"好奇心の女神"は当然ですよという顔で子猫に答える。
「地球の宗教の神なんて、人間の想像の産物だと思ってたんだけどな~。それじゃあ、地球の神は本当に存在していたのか?」
人間だったとき無神論者であった俺にとって、地球に神が存在してたという事はものすごい衝撃であった。
『ええ、数万年前には神々は、地球や月、そして他の惑星に住んでいたのです。しかし、ある現象が切っ掛けとなってこの世界に移り住むことになったのです』
"好奇心の女神"は、”神々の箱船”と呼ばれるこの世界に神や人間など生命体が移住することになった経緯を話してくれた。
◇
遙か昔、太陽系は魔力満ちあふれ、神々や精霊、天龍といった魔力によって糧を得る生命体が数多く暮らしていた。太陽は赤々と燃えさかり、その炎は各惑星に光と熱を与えていた。そして各惑星には精霊やそれに準ずる精霊族が平和に暮らしていた。
太陽系には幾ら消費しても仕切れないほどの魔力が満ちており、神々もそれが当たり前と思っていた。しかしある日を境に僅かずつであるが、世界に満ちている魔力が減少していることに神々は気付いてしまった。
神々は魔力の減少とその先に待つ魔力の枯渇を憂い、その原因の究明と減少を食い止める方法を探し始めた。
最初、神々は自分たちの力で魔力の減少を止められないのか、また魔力を生み出せないかと試行錯誤を繰り返した。しかし神々の力は魔力が源であり、力を振るえば振るうほど魔力が減ってしまった。また魔力を生み出すという試みも、とある方法で魔力を生み出すことに成功したが、それでは世界を救うに足りるだけの魔力を得ることができなかった。
そうしている間にも魔力の減少は止まらず、ついには神々が世界における実体を維持するのが難しいレベルまで枯渇してしまった。
神々は、実体を無くし神格だけの存在となることで魔力の消費を抑えることにしたが、そうなると世界を管理する者が居なくなってしまう。そこで神々は、人間やエルフ等の妖精族、そして魔獣といった生き物を作り出した。また、魔力の減少を緩やかにするために、新しく想像した生命体には魔力を僅かであるが増幅する機能を付け加えた。
神格だけの存在となった神々は、神界という神々の存在する特殊な空間を作り出しそこに存在することになった。また元の世界と神界とが重なりあう空間に精霊界を作り精霊はそこに移り住むこととなった。
実体を脱ぎ捨てた神々は、魔力減少の原因調査と枯渇対策を天龍という神々の手足となって働く種族に託した。天龍も魔力が枯渇してしまえば生存できないため一族を上げて必死でその原因を探した。
まず天龍達が行ったのは、魔力の枯渇が自分たちが住んでいる太陽系でのみ発生しているのかを調査することだった。
天龍達は太陽系から周囲数十光年に渡って魔力の枯渇状況を調べ上げた。そして魔力の枯渇が自分達の住む太陽系だけではなく、その近隣全ての宙域で発生していることを突き止めた。
更に詳しい調査により、天龍は太陽系が所属している銀河系は回転しており、それに伴い太陽系も宇宙を移動している事を知った。そして宇宙には魔力の濃い領域と全くない領域が斑上に存在しており、今まで太陽系は魔力の濃い領域に滞在していたのだが、銀河系の移動に伴い魔力の全く無い領域に移動しつつあることを突き止めた。
太陽系が魔力の無い領域に移動してしまうまで後数百年という事を知った神々と天龍は、滅びを回避するためにそれぞれ知恵を絞り、そして滅びを逃れるための二つの案を出した。
一つ目の案は、太陽系を離れて魔力の濃い領域に残るという方法だった。この方法は神格だけとなった神々ならば可能だったが、生きるために大地が必要な天龍やその他の生命体には難しい選択だった。
二つ目の案は、”神々の箱船”を作り出すことだった。これは、魔力を閉じ込めた世界を作り、再び太陽系が魔力が濃い領域に移動するまで、その世界で生きながらえるというものだった。
二つ案を検討した結果、上級神の全てと中級神の大半は一つ目の案をとることにした。彼等は太陽系を離れて魔力の濃い領域に残ることになった。天龍やその他の生命体は二つ目の案をとるしかなく、神々の協力の下、月の中に異空間…”神々の箱船”を作りだした。そして数柱の中級神と下級神と供に”神々の箱船”に引き籠もることになった。
”神々の箱船”の完成から程なくして、太陽系は魔力が存在しない領域に入ってしまった。世界から魔力は消え去り、それによって太陽系はその様相を大きく変えてしまった。
まず、赤々と燃えさかっていた太陽は、核融合により光と熱を出す存在となった。また太陽系の各惑星は、地球以外は生き物が住むことのできない星となってしまった。
唯一生き物が残った地球だったが、魔力が無くなったためその生態系は大きく変わってしまった。いや変わってしまったというのも生やさしく、生命の歴史そのものが書き換わってしまった。
例えば、ドラゴンやワイバーンなどは、恐竜という知性の無い存在になってしまい、その後全て死に絶えてしまった。その他の魔獣達も、全く別な生き物に変わってしまうか、様々な能力を無くした生き物…例えばケルベロスは犬にといった風に劇的に変化してしまった。
魔力の消失によって様々な生き物が変化する中、人間だけはその姿を変えることは無かった。
しかし魔力の枯渇によって魔法が使えなくなることは、それまでの魔法文明の崩壊を招いた。その混乱の中、文明社会社会は崩壊し、様々な知識まで失ってしまった人間は、原始人レベルまでその文明は退化してしまったのだった。
◇
『その後、神々は僅かに残った魔力を使って、地球文明の再建に力を尽くしました。そのおかげもあり、地球は現在の物質文明を築き上げることができたのです』
子猫は、自分が今まで信じていた地球の歴史とは全く異なる"好奇心の女神"の語る歴史を聞いて、信じて良い物か迷っていた。
(確かに古生物学にはミッシングリンクとか解明されていない謎が多いが、それが魔力の消失による生命の歴史そのものの改変の為と考えられなくも無いか。それに"好奇心の女神"が俺を欺す理由も無いしな~)
「…うん。お前のいう歴史は取りあえず信じることにする。それで、先の話に戻るが、知識チートが魔力バランスに影響を与えるとは、どういうことなんだ?」
もしかして俺が地球の知識を使った結果、それが禁忌に引っかかってしまい神々に罰せられてはたまらない。どのような知識が問題なのか俺は"好奇心の女神"に聞いておくことにした。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
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