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猫は見た(何を?)

「ねえ猫ちゃん、どうして学校の外にいたの?」


 女子寮に戻る途次、リュリュは抱きかかえている子猫(おれ)に尋ねてきた。


『リュリュをさがしていたのです』


「私を?」


『れんきんのじゅぎょうにいったら、リュリュがいませんでした。だからさがしたのです。…ああ、そういえばアーデンベルせんせいがリュリュをみつけたらつれてきなさいといってました』


 子猫(おれ)はリュリュに訪ねられて、アーデンベル先生に一緒に来るようにと言われていたことを思い出した。


(女子寮に戻るつもりだったけど、アーデンベル先生の所に行くのが先か)


 リュリュを探す途中で鐘が鳴っていたことから錬金術の授業は終わっている。そうなると、今はお昼の時間である。午後の文学の授業は休講と聞いているので午後は二人とも空き時間となっている。


 アーデンベル先生もそれを見越して俺達を呼び出したのだろう。アーデンベル先生も午後からは授業が無いので、自分の研究室に居るはずである。


 ちなみに、魔術学校には職員室というものは無く、先生達は授業が無いときは自分の研究室にいるのだ。



(錬金術か…ちょっと興味があるよな)


 エーリカも錬金術を少しかじっていたが、彼女の場合は魔法薬(ポーション)を作る為の素材作りのためであったので、その内容はかなり限定的であった。それに対してアーデンベル先生のは本格的な錬金術である。その研究室となると、どのような研究をしているのか想像もできない。


『リュリュ。じょしりょうにもどるまえにアーデルベルせんせいのところにむかいましょう』


「えーっ、お腹空いたよ~。猫ちゃん、お昼食べてからにしようよ」


『…しかたありませんね。じゃあおひるをたべてからにしましょう』


 泣きそうなリュリュに負けて、当初の予定通り女子寮に俺達は向かった。





 女子寮のカフェテリアでお昼を食べた後、リュリュは寮長の部屋にクラリッサを訪ねた。もちろん子猫(おれ)は入り口で待機だ。

 部屋にはジュンコさんは居らず、クラリッサがベッドで横になっていた。


「クラリッサちゃん、具合はどう?」


「…お腹痛い」


 調子が悪いのか、クラリッサは少し青い顔をしていた。


「最初は仕方ないよね。我慢するしか無いよ。…ところで、この子は誰?」


 リュリュがクラリッサに近づこうとすると、その前にミーム(人形)が立ちはだかった。


「警告、それ以上クラリッサさんに近づくと、排除します」


 脅威度判定基準は不明だが、ミーム(人形)はリュリュを脅威対象と認識したようだった。


「みゃーみゃーん。にゃー」(ミーム、リュリュ(彼女)は仲間として認識。警戒対象から外して)


「マスター、了解しました。…待機状態に戻ります」


 子猫(おれ)の命令を聞き取ったミーム(人形)は、窓際の待機位置に戻った。


「…びっくりした~。あの子って人間じゃないの?」


「うん、人間じゃ無い。プルートがトビアスから借りてきた巨人(ゴーレム)


「へ~。…本当だ、よく見るとお人形さんだね~。人間にそっくりな巨人(ゴーレム)って初めて見たよ~」


 リュリュはミーム(人形)に近寄るとまじまじと顔を見て、ほっぺたをツンツンと突いていた。


「にゃーにゃー」(リュリュ、そろそろ行くよ~)


 クラリッサの状態も確認したのでアーデンベル先生の元へ向かおうとリュリュを呼ぶ。


「リュリュ、プルートが呼んでる」


「あっ、はーい」


 クラリッサが子猫(おれ)の言葉を通訳してくれたので、リュリュが子猫(おれ)の方に駆けてきた。


『アーデンベルせんせいのところにいきましょう』


 子猫(おれ)はリュリュに抱っこされて、女子寮を後にした。





 アーデンベル先生の研究室は、トビアスの書斎から五分、ほどの所にあった。年季の入った木の家屋は、まるでお化け屋敷のように見える不気味なたたずまいであった。


「…ちょっと怖い」


『そうですね。いまにもたおれそうですね』


 リュリュと子猫(おれ)は恐る恐る門を潜った。


 コンコン


「アーデンベル先生?」


「にゃぁ?」(先生?)


 ガーゴイルという悪趣味なデザインのドアノッカーを叩いてアーデンベル先生を呼んだが、幾ら待っても返事は返ってこなかった。


(留守なのかな?)


 ギィ


 リュリュがドアを押すと、鍵はかかっておらずきしんだ音を立てて開いた。


「入っていいのかな?」


『せんせいによばれたのですからはいってよいのでは』


「…そうだね。失礼します~」


「にゃー」(お邪魔します~)


 リュリュと子猫(おれ)はドアから建物の中に入っていった。





 研究室の中は薄暗く、あちこちに錬金術に使うのだろうと思われる素材(・・)…アルコール漬けの魔獣の一部が入ったガラス瓶や蛙やイモリの干物といった物が所狭しと積み重ねられていた。


(こりゃ、錬金と言うより黒魔術に近いんじゃないのか…)


 リュリュは、「アーデンベル先生~」と言いながら研究室の奥に進んでいった。トビアスの書斎には多数の学生兼助手がいたが、この研究室には全く人気がない。


(アーデンベル先生は助手を持っていないのかな? …まあ、この素材(・・)を見たら近寄りたくないだろうな~)


 リュリュはそろそろ限界なのか、涙目になっていた。


「アーデンベル先生~」


 リュリュが恐怖に耐えながら進むと、前方にユラユラとした明かりが漏れているドアが見えてきた。どうやらその部屋にアーデンベル先生がいるようだった。


「失礼します。アーデンベル先生?…ヒッィイイイ」


 俺達は扉のを開けて中を覗き込んだのだのが、中の光景を見てリュリュがムンクの叫びのようなポーズで悲鳴を上げてしまった


「みゃーにゃ…」(アーデンベル先生…)


 部屋の中は、それまでの部屋と大差ないほど物であふれかえっていた。唯一の違いは中は鬼火のような物体で明るくなっており、ビーカーやフラスコといったいかにも錬金術師といったアイテムが並んでいることだった。


 そしてその部屋の中央の巨大な鍋に、アーデンベル先生は子供の死体のような()を切り刻んで投入していた。


「ん~、誰じゃ? おお、君達か」


 どう見ても猟奇殺人の証拠隠滅現場にしか見えない状況で、アーデンベル先生はさわやかな笑みを浮かべて俺達を出迎えた。





「なるほど、君達はこれにびっくりしたのか」


 アーデンベル先生がそれ(・・)を持ち上げた。


「ヒッ!」


 切断された人の手にしか見えないそれ(・・)を見てまたリュリュが小さく悲鳴を上げた。


『それはもしかしてマンドラゴラですか?』


「君は使い魔()の癖にに、良く知っておるの~」


エーリカ(御主人様)におそわりました』


 実際にはマンドラゴラが錬金術で使われると言うのは、ラノベやゲームで知った知識だ。緑がかった()の色と切断面がから血が流れていないことに気付かなければ、子猫(おれ)も逃げ出していただろう。


紫の魔女(エーリカ)か…。彼女は元気にしているのかね?」


 どうやらアーデンベル先生はエーリカの事を知っているようだった。


『はい。げんきだとおもいます』


「君のような使い魔を従えるのだから、随分と腕を上げた様じゃな。儂もうかうかしておれんの~」


 そう言って再びアーデンベル先生は鍋に向かおうとした。どうやらエーリカに対し、対抗意識を持っているようだった。

 後でトビアスに聞いたのだが、アーデンベル先生はエーリカと同じ時期に魔術学校に在籍しており、そこで二人はライバルとして張り合っていたと言うことだった。魔術学校を卒業しても二人はライバル関係であり、エーリカはそれで魔術に関するレポートを魔術学校に提出しているとのことだった。


『せんせい、ぼくたちをよびだしたのは、なにかようじがあったのでは?』


 子猫(おれ)は鍋に戻ろうとしたアーデンベル先生を引き留めて、呼び出した理由を尋ねた。


「おお、そうじゃった。呼び出したのは、リュリュ君が今日の授業を無断欠席した件についてじゃ。

 儂の授業を無断欠席するなど、許しがたいことじゃ。本来なら、二度と錬金術の授業を受けさせないという事も考えたのじゃが…まだ入学してそう経っていない点を考慮して、罰としてレポートの提出を命じるのじゃ」


「レポート?」


 リュリュがレポートと聞いて首を傾げる。冒険者だったリュリュはレポートなどと言う物は理解できないようだった。


「うむ、課題はこれに書いてある。来週まで提出すれば、今回の無断欠席の件は許すのじゃ」


 そう言ってアーデンベル先生はリュリュに課題の書かれた羊皮紙を手渡した。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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