猫と人形メイド
10/12 ジュンコさんの口調を少し変更
クラリッサの護衛として人形を使わせてもらう事に決めたが、今のドレスでは護衛に支障が出る。違う服に着替えさせようとトビアスが倉庫から人形用の服を一式持って来たのだが。
「これで良いじゃろ」
トビアスが人形に着せようとしたのは、どう見てもバニーガールが着るバニースーツであった。
「いやバニースーツとか何処からそんな服が?」
「バニースーツ? これは、ゼノア王国を建国した勇者が考案したドレスじゃぞ?」
「…本気ですか」
どうやら、ゼノア王国を建国した勇者は地球からやって来た転生者だったらしい。バニースーツのおかげでそれが判明したのだが、当の勇者は百数十年前に亡くなっているので、残念ながら会うことはできない。
子猫はトビアスの持ってきた服を漁るが、そこにあったのは、バニースーツ、セクシーなドレス、スクール水着、セーラー服、メイド服といったマニアックな服ばかりであった。
「これなら、まだ何とか…」
マニアックな服の中で、子猫が選んだのは黒いロングスカートにフリルのついたエプロンというクラッシックな形式のメイド服だった。ロングスカートなので人形が変な動作をしてもパンツが丸出しにならないのが、選択のポイントだった。それにメイド服は動きやすく作られているので、護衛にも余り支障がでない。
「うーむ、メイド服じゃと。女子寮ならその方が目立たぬか」
トビアスは顎髭をいじりながらそう呟く。
(当然だろ。一体全体バニースーツを着せて何をさせるつもりだったんだ)
子猫は内心でトビアスに突っ込んだ。
女子寮には貴族子女の身の回りの世話をする侍女やメイドが多数いる。10歳前後の子供のメイドはいないが、さすがにバニースーツよりは目立たないはずだ。
「この服に着替えるんだ」
人形に服を着替えるように命令したのだが、人形は待機状態のまま首をかしげた。
「…この服に着替えるんだ…?」
しかし人形は首をかしげたまま動かない。
「校長先生?」
「……おお、そうじゃ。こやつには名前を付けないといかんのじゃ」
トビアスはしばし考え込んだ後、ポンと手を打ってそんな事を言い出した。
「名前ですか?」
「そうじゃ。こやつは今までの巨人と違って、複雑な命令や、自分の置かれた状況を判断して命令を遂行する事ができる機能を付けたのじゃ。そこで、自分への命令を正確に判断するために、名前という概念を付けたのじゃ」
通常巨人は複雑な命令をすることができない。例えば、『ここを通る者を撃退しろ』とか『○○を取ってこい』といった簡単な命令しか受け付けない。そうなると人の護衛をさせるにしても、『△△を守れ』といった命令を与える事になるが、その場合巨人は護衛対象に常に付き従い、それでいて明確な危機に陥った場合…例えば誰かに斬りかかられるといった状況でしか行動を起こさないのだ。
しかし、トビアスが作ったこの人形は、『△△に近づく不審な人物を警戒し、武器を持っていたら取り押さえろ。護衛は少し離れて行え』といった曖昧な命令を遂行できるらしい。ただ、その機能を実現するために通常の巨人の数倍の魔力を消費してしまう結果となった。
(確かに凄いな。これなら護衛任務に使えるぞ)
子猫はトビアスの技術に感心しながら、(どんな名前にするかな~)と人形の顔を見ながら考えていた。
(人形というか女性型のアンドロイドというと、マ○チとかヌ○ヌク…初音ミ○はボーカロイドだし…そうだな、やっぱりアレだな)
俺は人形に付ける名前を決めた。
「お前の名前はミームだ」
某ロボットアニメに出ていた少女型のアンドロイド…そこから僕は名前を付けることにした。そのアンドロイドは最後はヒロインを守って悲劇的な死を遂げるのだが、最後には人間に転生するというオチも残されていたりする。
閑話休題
「ミームを名前として登録するにゃん」
人形は僕の付けた名前を記憶してくれたのだった。
「ミーム、この服に着替えるんだ」
「了解にゃん」
子猫からの命令を了解して、ミームはメイド服に着替え始めた。普通の巨人では服を着替えるといった動作は不可能だが、柔軟な外装と細かな動きのできる駆動系を持ったミームは、素早く服を着替えていった。
「着替え終わりましたにゃん」
そして、服を着替え終わったミームに子猫が次に出した命令は、
「…ミーム、語尾の『にゃん』は付けないように!」
語尾の『にゃん』を取るようにだった。
◇
少し手間取ったが、ミームの起動は成功した。女子寮を出てから既に二時間ほど経過している。子猫は急いでクラリッサの元に戻ることにした。
「ミームはクラリッサの護衛としてお借りしますね」
「うむ。儂も女子寮の警備体制を強化できないか、総務に臨時予算を出すように掛け合ってくることにしよう」
「それは、ありがとうございます。…ミーム、僕に付いてくるんだ」
「はい、マスター」
トビアスにお礼を言った子猫は、ミームを引き連れて女子寮に向かった。
「こらこら、そこの女の子、勝手に女子寮に入ってはいけないよ」
女子寮に入ろうとすると、門番の女性兵士は子猫の後を付いてきたミームの前に立ちはだかった。
(しまった、ミームの身元を証明する物が無いぞ…)
ここで子猫は、ミームの身元を証明する物が無いことに気付いた。どうしようかと子猫が困っていると、
「私は、製造ナンバーXR-871、トビアスの作った巨人です。女子寮へ入る許可を求めます」
そう言って、ミームはスカートをたくし上げて、太ももの内側にある製造番号とトビアスのサインを女性兵士に見せていた。トビアスの趣味なのだろうが、少女を模ったミームが見せるのは、問題がある。
(なんて所にサインを入れているんだよ全く~。明日ミームのタグを作って貰おう)
恥ずかしそうにミームのサインを確認する女性兵士を見ながら、子猫はそう決意するのだった。
「…確かにトビアス校長のサインですね。しかし、貴方は本当に巨人なのですか?」
女性兵士は、人間にそっくりなミームに驚いていた。
「はい、私は巨人ですよ。…ところで、私は女子寮に入って宜しいのでしょうか」
「あ、はい。どうぞお入りください」
まるで人間の様に受け答えするミームに、女性兵士は慌てて道を譲るのだった。
女子寮に入ると、急いで寮長の部屋に子猫は向かった。ミームもその後をトテトテと付いてくる。
「みゃ~」(クラリッサ~)
「懲りないな~。しばらくの間、クラリッサに近寄るのは止めなさい。…ところでこの子はいったい誰なの?」
部屋に入ろうとドアを開けたところで、待ち構えていたジュンコさんが子猫をつまみ上げた。そして子猫に続いて部屋に入ってきたミームを見て驚いていた。
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