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猫は少女と引き離される

(つまり、クラリッサは大人(・・)になってしまって、その為に情緒不安定だったのか…)


 クラリッサはジュンコさんの後ろに隠れて子猫(おれ)をソッと覗き見ているが、目が合うと又彼女の背中に隠れてしまった。


(そういやリュリュも一緒に居るけど、そんな事起きてなかったよな~。アマネもそんなそぶりを見せてなかったけど…)


 子猫(おれ)が悩んでいると、


「クラリッサちゃん、今度から(ポーション)を飲みましょうね」


 とジュンコさんが、クラリッサに(ポーション)を飲むようにと教えていた。彼女の手には、小さな素焼きの瓶が握られていた。


「リュリュも飲んでるよ」


「知ってる。エーリカも飲んいた」


 後で知ったのだが、この世界には女性のアレ(・・)を止めてしまう(ポーション)が存在する。それを月に一度飲めば厄介な状況にならないという、女性冒険者御用達の物らしい。魔法薬(ポーション)ではなく薬草を煎じて作る(ポーション)であるため、値段も一般の人が入手可能なレベルである。


「この(ポーション)、初めてを経験しないと飲めないからね」


 どうやらこの(ポーション)に副作用はほとんど無いのだが、アレ(・・)が始まっていない女子に飲ませるのは不味いらしい。


「にゃーっ、みゃー」(ふう~。良かったクラリッサに嫌われた訳じゃ無かったのか)


 原因が分かり、子猫(おれ)は安堵の溜め息をついた。


「最初だけはそのまま過ごして貰うしかないのです。それで、クラリッサちゃん、これからどうしますか?」


「クラリッサちゃん、どうするの?」


 ジュンコさんとリュリュがクラリッサに尋ねるが、彼女は顔を赤くしてジュンコさんの背後で何事かリュリュに囁いていた。


「暫くプルートと別な部屋が良いってさ~」


「なー」(そんな~)


 クラリッサは暫く子猫(おれ)と顔を合わせたくないと言うことだった。


「仕方ないですね。じゃあ、クラリッサちゃんは私が預かりましょう」


 寮長であるジュンコさんは、二人部屋を一人で使用している。クラリッサはアレ(・・)が治まるまで、子猫(おれ)と離れて過ごすことになるのだった。


「クラリッサちゃんは今日はお休みだね。校長先生に報告しないと~」


 そう言って、リュリュは子猫(おれ)を抱きかかえた。


「みゃー」(クラリッサ~)


 リュリュに連れ去られる子猫(おれ)の鳴き声が、むなしく廊下に響くのだった。





「なるほどの~。そんな事があったのか。それで今日はクラリッサちゃんはお休みなの」。


「そうなの。だから今日はクラリッサちゃんはお休み~」


 子猫(おれ)とリュリュはトビアスの書斎に来て、クラリッサがお休みの理由を説明していた。


「しかし、お前()さんもあんまり浮気をせんことじゃな」


 トビアスは子猫(おれ)とクラリッサの話を聞いて髭を撫でながら笑っていた。


(ぬう~。トビアスめ~。人の不幸を笑いおってからに~。いつかその髭に爪を立ててやる~)


 子猫(おれ)はトビアスにむかっ腹を立てつつも、それをおくびにも見せずプラカードを掲げた。


『クラリッサがおやすみということをドロシーさんにもつたえておいてください』


 いつもなら朝早くにトビアスの書斎のある小屋に来ているはずのドロシーだが、今日はまだその姿が無かった。


「そうじゃな。…しかしドロシーは今日は遅いの~」


「トビアス校長先生、おはようございます」


(噂をすれば影だな)


 そんな話をしている間に、書斎の扉がノックされ、ドロシーが入ってきた。


「おはよう。ドロシー、今日は遅かったの~」


「おはようなの」


『ドロシーさん。おはようございます』


「皆さん、おはようございます。…あら、クラリッサさんは御一緒じゃ無いのですか?」


「それが…」


 リュリュがドロシーにもクラリッサがお休みしている理由を説明すると、彼女は目を丸くした。


「それは大変ですわ。…そうです。確か実家に痛み止めの魔法薬(ポーション)があったはず。それを届けさせましょう」


 ドロシーは、お付きの侍女を呼んで、彼女の実家(公爵家)から魔法薬(ポーション)を持ってくるように言いつけていた。


『おおげさです。それにくすりならクラリッサもつくれますから』


 子猫(おれ)はそう言って魔法薬(ポーション)を辞退しようと思ったのだが、


「猫さん、アノ(・・)時は魔法を使うのは大変なのですよ。クラリッサさんでも魔法薬(ポーション)の作成は難しいですわ」


 とドロシーにたしなめられてしまった。


アノ(・・)時は魔法に必要な意識の集中が難しいんだよね~」


 リュリュもそう言って隣でうなずいていた。


(なるほど、女性はアノ(・・)時は魔法が使いづらいのか…って、それってもしかしてクラリッサが危ないんじゃ!?)


 後でトビアスに聞いたのだが、女性の魔法使いはアノ(・・)時は集中力が鈍るため魔法が使えない若しくは著しく魔法を使うのに制約が付くらしい。そのため女性の魔法使いは必ず一月に一回の(ポーション)を飲むのを忘れないということだった。


(やっぱり、俺はクラリッサの側に居た方が良いかな~)


 日中と言うことと、女子寮の警備体制からクラリッサを一人で残してきたのだが、魔法が使えないとクラリッサは普通(・・)の11歳の女の子である。初級の上クラスの冒険者で、剣を使わせてもそこそこの腕前ではあるが、クラリッサを襲ってきた暗殺者と戦うとなると、少し心許ないと子猫(おれ)は感じていた。


「猫ちゃんどうしたの?」


 腕の中でもぞもぞとしている子猫(おれ)に気付いたリュリュが、不思議そうな顔をする。


『クラリッサのもとにむかいます。リュリュはじゅぎょうにでてください』


 子猫(おれ)はプラカードにそう表示すると、リュリュの腕から飛び降りて走り出した。


「猫ちゃん、待って~」


 リュリュも子猫(おれ)を追いかけて走り出す。


「おいおい、何を慌て取るんじゃ。女子寮の警備は…」


 後ろではトビアスが何か叫んでいたが、子猫(おれ)はそれを無視して女子寮に向かって全力で駆けていくのだった。





 昼の間、女子寮の警備は巨人(ゴーレム)では無く女性兵士が行っている。何故女性兵士が警備をしているかだが、トビアスのカスタマイズした巨人(ゴーレム)は高性能なのだが、燃費が悪いため昼の間は魔力(マナ)を補充するためであった。


「あら、猫ちゃんどうしたの?」


「侍女の、えーっと、リュリュちゃんだっけ…は一緒じゃ無いの?」


 首輪のタグ(学生書)を確認しながら女性兵士が子猫(おれ)の頭を撫でる。


「なー」(早く通して~)


 女性兵士が扉を開けるのと同時に子猫(おれ)は寮に飛び込むと、寮の階段を駆け上がってクラリッサの居る部屋に向かった。


 何故かクラリッサの居る部屋のドアは開け放たれていた。


(ドアが開けっ放しだと。部屋に不審者が入った警告(アラート)は無かったはずだが。何があったんだ?)


「うみゃーん」(クラリッサ!)


 部屋に飛び込むと、……そこには誰も居なかった。


(あれ? クラリッサは一体何処に行ったんだ…)


 子猫(おれ)は部屋に駆け込んだ姿のまま固まってしまった。





「ひぃ、はぁはぁ…猫ちゃん、リュリュを置いてかないでよ~」


 子猫(おれ)から遅れること数分、リュリュが部屋に駆け込んできた。


「にゃーにゃー」(クラリッサが居ない~)


「? ああ、クラリッサちゃんはジュンコさんの部屋に居るんでしょ」


(そういえば、ジュンコさんが預かるって言ってたっけ)


 子猫(おれ)はその場で腰を抜かしたように座り込んでしまった。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

お気に召しましたら、ご感想・お気に入りご登録・ご評価をいただけると幸いです。誤字脱字などのご指摘も随時受付中です。


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