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新たなる人生

2014/05/22 事情があり旧版に戻しました。

      

 その日は雨が激しかった。


「ようやく家に帰れる~♪」


 俺は一週間続いたデスマーチから解放された喜びで、深夜の山道を軽四でかっ飛ばしていた。


「大体3人月かかる作業を二週間でやれってことが無茶なんだよな~」


 俺は仕事の愚痴をこぼしながら峠を攻めている。

 会社からの帰り道のコースは、国道を通る道と、細くカーブ多い山道の2コースが有る。急いでいる場合は、覆面パトカーやネズミ捕りがいる国道よりも、山道のほうがスピードも出せるので急いでいる今夜は山道のコースを通っていた。

 深夜の山道なので対向車も人もほぼいない。そんな安心感と、早く帰宅して久しぶりにネトゲにログインしたいという気持ちがアクセルを踏み込ませる。


 山道も中盤にかかり下りの高速カーブに入った時そいつは道に現れた、いや居た。車のヘッドライトに浮かび上がる黒い子猫の姿を見た瞬間俺はハンドルを切りブレーキを踏み込んだ。

タイヤはグリップを失い車はスピンしてガードレールに突っ込んでいった。

 普通ならガードレールにぶつかって止まる所だが運の悪いことに衝突した場所は以前の事故でダメージを受けており俺の車の衝突に耐え切れず壊れてしまった。


 俺と車は横転しながら崖を落ちていった。


「なんでそんなところにいるんだ~」


 俺はそう子猫に叫びながら落ちて行き、そして意識を失った。

 それが金森英二(30歳会社員独身)の最後であった。





 気がつくと俺はパンツと靴下という非情に微妙な姿で仰向けに寝ていた。地面に寝ているのではなく、空中に寝た姿勢のまま浮いているようだった。

 俺は起き上がろうとしたが、体はピクリとも動かず、かろうじて目だけが動かせる状態だった。目だけであたりを見回すと、俺がいるのは白い霧に満たされた部屋の中の様だった。


「うーん、狭い部屋にドライアイスの霧って昔の特撮の安いセットだよな。」


 口から言葉が出たので、喋ることはできる様だ。

 俺はなぜこんなところに自分がいるのか思い出そうとした。


(会社からの帰り道、山道を走っていて何か飛び出したのを避けて…そうだ確か車ごと崖に落ちて…。)


 俺は自分が事故を起こしてしまった事を思い出し、自分は死んでうわさに聞く死後の世界にいるのではないかと思い始めた。





『この部屋は特撮セットなんかではありません。ここは女神()世界(へや)です。』


 突然俺の頭にそんな声が鳴り響き、顔の上に光り輝く球体としか言えない物が浮かんだ。


「私の世界って…じゃあここは死後の世界じゃないのか。女神の世界? 昔の特撮の○ルトラマンとかスター・○レックの安いセットにしか見えない場所が女神の世界って言われても信じられないよ。」


『安いセットって……これでもお友達(下級神)からは、殺風景だけど品の良い世界(へや)だねと言われてるんですよ。後、私は光の国の使者でも謎の異星人でもありません。これでも神様です。』


 殺風景は褒め言葉ではありませんよと俺は思った。友達もこの殺風景な部屋には呆れているんだろうな。


「俺、無神論者だし。自称神様なんて胡散臭さ倍増だな。」


『……だから日本人は駄目なんですよ。昔は八百万の神を信じていたのに、今は年末年始と本当に困ったときの神頼みぐらいにしか……』


 自称神様は愚痴り始めた。愚痴がだんだん近頃の若いものはとか年寄りじみてきたので、とりあえず俺は状況を説明してもらうことにする。


「日本人の信仰心に対する愚痴は良いから、自称神様よ何故俺はここにいるのか教えてくれ。」


『自称神様って...下級女神だけど本当に神なんですよ。まあその辺は良いです。』


 良いのか。なんか軽い神様だな。


『えぇと、なぜあなたがここにいるかというと、あなたは先ほどの事故で死んでしまいました。そこで私はあなたを別世界で転生させるつもりでここに魂を持ってきたのです。』


 やはり俺は事故で死んでしまったらしいが、どうやらこの女神は俺を転生させてくれるらしい。しかしなぜ俺を転生させてくれるんだろうか。


「転生って?なぜあんたは俺を転生させてくれるんだ?」


 光の球体が少し震えたように俺には感じられた。


『その前に私は貴方には謝らなければなりません。なぜなら私の落ち度により貴方を死なせてしまったのです。』


 すまなさそうな声が返ってきた。


「あんたに謝られる覚えはないぞ?俺は車の事故で死んだのだろうし、あれは俺の運転ミスだ。」


『その事故の原因が私にあるのです。貴方が運転をミスった原因、それは車の前に飛び出した子猫なのですが、その子猫に私が乗り移っていたのです。』


 女神の話によると、彼女は自分達が管理する世界の側に存在する俺達の世界に興味が湧き見学したかったらしい。しかし俺達の世界では神が存在するためのマナとかが足りないらしく、何かに憑依する必要があったそうだ。そこでたまたま見つけた野良子猫に憑依して、これからあちこち見回ろうとしてたのだが、その矢先に俺の車の前に飛び出し事故につながったということだ。


「なるほど、下級女神のあんたが事故の原因ということは解かった。それで何故俺はここに寝かされているんだ?しかもパンツと靴下だけって…もしかして、あんたの趣味なのか」


『わ、私はそんな恥ずかしい嗜好は持っておりません。貴方は今魂だけの状態でこのアストラル界にきています。私のミスで死なせてしまった貴方に私達下級神が管理する異世界で転生してもらうためここに来てもらいました。ちなみに服には魂がないので素っ裸のはずなのですが、恥ずかしいのでパンツは私が作って履いてもらいました。靴下はなぜか最初から履いてましたが?……靴下に魂があるのでしょうか…興味深いです。』


 女神が変なところに興味を持ち始めた。まあ素っ裸だと恥ずかしいのでパンツを履かせてもらったことには感謝しよう。

 しかし靴下が魂を持っているってどういうことなんだろう。デスマーチでここ数日履き続けていたがまさかそれだけで魂を持っちゃったりするんだろうか。靴下侮りがたし。


「異世界で転生させてくれるって言うことだが、元の世界で転生じゃなくてなんで異世界なんだ。だいたい神様なんだから俺を元の世界で生き返らせてくれよ。」


 なんとなくこの女神では無理っぽいと思ったがとりあえず元の世界で生き返ることを主張した。

 何事も主張しておくことは大切だ。


『はい、先程もお話したように、私は貴方の居た世界ではあまり力が出せません。よって貴方には別な世界、私達の管理する異世界で転生してもらうことになります。』


「あんたが下級女神ならもっとえらい神様、中級とか上級神とかいるんじゃないのか。そいつには頼めないのか?」


中間管理職に権限()が無いならその上の人を引っ張りだして何とかする、俺が仕事で学んだデスマーチを回避する方法だ。まあ下っ端のことなんて聞いてもらえるか解りませんがね。


『頼めるとは思うのですが、貴方のいた世界で生き返らせるとなると、おそらく上級神様にお願いすることになります。しかし今上級神様はこの界隈にはおられませんので、こちらにこられるのを待つ必要があるのですが、待ちますか?』


 上級神なら普通に生き返えれるのか。


「どれぐらい待てば良いんだ?」


『えーっとですね、千年ほど待てばこちらに帰って来られます。』


「待てるか~」


 千年も待っていたら同じ世界でもほぼ別世界になってしまう。浦島太郎もそれに耐え切れず玉手箱を開けてしまったんだ。

 この部屋の時間間隔が分からないが、こんな殺風景な部屋で千年もじっと寝ていろと言われたら途中で気が狂うと思う。


 どうやら俺には異世界で転生するしか選択肢はないようだ。


「異世界ならすぐに転生できるのか?」


『そうです。私たちが管理する世界であればドラゴンでもゴブリンでもスライムでも転生可能です。』


 人間に転生する選択肢はないのかよ(怒)。もしかして俺はこの女神に嫌われて嫌がらせを受けてるのかもしれないと思い始めた。


「人間に転生できないのか?もしかして俺が事故って世界の見学が中止になった嫌がらせなのか?」


 女神の光球が激しく点滅した。どうやら動揺したらしい。


『も、もちろん人にも転生できます。お望みであれば王族や貴族の子共に転生可能です。』


 おお、こいつが管理する世界ってのがちょっと気にかかるがかなり好条件で転生できるらしい。もしかして美味しい話になってきたのかもしれない。

 ここは肝心な事を聞いておこう。


「転生すると記憶はなくなってしまうのか?」


『記憶を残すことも可能です。ただ赤ん坊とかに転生すると、今の記憶を持って成長するのは大変だと思うのですが?』


 記憶持ったままってこれはかなりいい条件かもしれない。


「異世界ってどんな感じなんだ?」


『そうですね、あなたの世界で言えば技術レベルは中世に近いでしょうか。ただあなたの世界でいう幻獣、ドラゴンやオーク、エルフと言った者達も住んでいます。魔法もあるのでファンタジーRPGゲームに近いと世界といえばよろしいでしょうか。』


 なんてありがちな世界だよ。ファンタジー系のネットゲームをしている俺にとってかなり魅力的な世界らしい。そんな世界で王侯貴族の子供に生まれ変わり、こっちの世界の知識を使えばすごいチートができるんじゃないか?


「良く理解った、…俺は異世界での転生を希望する。」


 俺は異世界での転生を決断した。即断即決、聴牌即リーチが俺の信条だ。


『理解りました。異世界での転生でよろしいのですね。では今から転生の条件をお聞きしますが、どのような生まれ変わりを望みますか?』


「とりあえず金に困らない王侯貴族で、容姿端麗、魔法も武術も才能溢れる子供でお願いします。」


 とりあえず俺としては控えめな条件を出してみた。だって最初からハーレム希望とか女神様にはちょっと言いづらいしね。


『……もう欲望がダダ漏れなご希望ですね。理解りました、それで条件にある転送先ですが………希望に合う調度良い物件が見つかりました。今からその子供に貴方の魂を送り込みますが、よろしいですか?』


 欲望ダダ漏れってのは言いすぎだ。

 しかしこの条件に合う転生先があるらしい。どれだけ恵まれた子供なんだ。

 やっぱり人間は生まれでその全てが決まってしまうのか。これが格差ってやつなのか?


「そんな転生先が見つかったのか……まあ高望みしてもしょうがないね。そいつで良いや。」


 即断即決です。


『高望みって…それでは今から転生を始めますが、よろしいですか?』


「オッケーです。とっとと始めてください」


『では転生を開始します。』


 女神の声とともに浮かんでいた光の球体が徐々に人の形になって行く。そして俺の体は光の球体に変化していった。

 下級神は白いトーガをまとった神々しい美少女になり、俺の魂である光の球を手に持った。


「結構美人だったんだな。」


 光の球になっても喋れるようだ。声はどこから出てるんだろう。


『ありがとうございます。』


 女神は少し赤くなりお礼の言葉を言ったが、よく考えると俺が死ぬ原因となったのだし持ち上げて落とすのがお約束だろう。


「だがボリュームが足りないな。俺のストライクゾーンではない。」


 とりあえず落としておく。


『...』


 一瞬神々しさが薄れ下級女神のこめかみに青筋が立った気がするが俺の気のせいだろう。

 ところで女神は別な手にも小さい光の球を持っていた。


「左手の光は何なんだ?俺以外にも転生する奴がいるのか。」


『こちらはあの子猫の魂です。』


 女神が取り付いた子猫は、俺に轢かれなかったが結局は死んでしまった。そこで俺と同じく異世界で生まれ変わるのを望んだらしい。


『では行きますよ。』


 女神はなぜかセットポジションから俺の魂を投げ込んだ。そして俺は異世界に転生した。





「どうやら成功したみたいね~。」


 若い女の声が聞こえる。俺は数日の徹夜明けで一日爆睡してから目覚めた様な気怠さを感じていた。


「まだ調子が悪いのかしら~。」


 女神とは違った女性の声。どうやら俺の転生は成功したらしい。

 そう感じることができるってことは金森英二としての記憶もちゃんとあるみたいだ。

 俺がそっと目を開けると十代前半の少女が視界に入ってきた。紫色の髪で天然パーマでふわふわの関西のおばちゃんも真っ青な残念髪型だが顔立ちはかなり可愛い部類に入る。

 しかし年齢から考えると産婆にしても俺の母親にしても若すぎる。この少女は産婆さんの助手なんだろうか。

「ホント、死にかけているのを見つけたときはどうしようかと思ったけど間に合ってよかったわ~。」


 死にかけってもしかして難産だったんだろうか。転生直後に死亡したらあの女神を呪ってやるところだったぞ。

 でもまあ無事に生まれたしあの女神には感謝しておこう。とりあえず生まれたんだから赤ん坊らしく泣かないといけないよな。


 俺は転生して初めての一声を上げた。


「みゃぁ~」


 えっ?なんか子猫みたいな鳴き声なんですけど。慌てて俺は自分の体をまじまじと見つめた。


 手に肉球がある……ってこれは子猫の体じゃないのか?


 俺は悟った、どうやら俺は子猫に転生したらしい…。


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