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<R15> 15歳未満の方は移動してください。

勇者です。突然ですが、魔王が文通相手だったことが発覚しました。

作者:柚篠やっこ
「今日のダンジョン攻略、お疲れ様ぁーっ! ではでは、かんぱーい!」

既に酔っているのか、食堂にはしゃいだような大声が上がる。
その声に合わせ、パーティの皆はジョッキを宙に向け、乾杯の意を示した。

「まだかなまだかなあ!?」
「…… アリナ、うっさい」

そんな私はといえば、魔王城まで後1歩となった25個目の最後のダンジョン攻略の祝宴も良いところに、料理を食べながら真っ黒な闇が広がる窓の方へとチラチラと視線を向けていた。
それがうっとおしかったのか、同じく隣で料理を食べていたパーティの唯一の回復役である僧侶のソフィアが呆れたように声をかけてきた。

「だって、トールくんが来ないからには宴は始まらな…… あ、来た!?」

あらかじめ大きく開かれていた窓から、バサバサという羽音と共に真っ黒な身体に赤い瞳を持った鳥が入ってくる。
まるで鴉のような見た目だが、鴉ではない、らしい。サイズも色も(瞳を除いて)ピッタリといえばピッタリなのだが。

「また文通ねえ…………」
「ただでさえ、交通の弁が悪いからね。返事はすぐ書いて早く出さなきゃ……!」
「あーもう、好きにしなさいな」

トールくんの頭を撫でながら、マイペンとマイレターセットを取り出す。
今日のは、私の数百種類あるレターセットの中でも特にお気に入りで、いつかなくなったらというために事前に大量に購入しておいたものだった。
ソフィアは、今度は疲れたような表情になり、相変わらずの目でで私を見ると深いため息をついた。

“勇者様!”

貴族でも何でもない、ただの一国民だった私が勇者として担ぎ上げれたのは3年前の15歳の時だった。
度々による魔族の人里襲来、というのに困り戦いと知恵の女神リリアナに祈ったところ、私を勇者にすれば魔王に勝てる、という神託が下ったらしい。
私の意思はどこへ行ったのやら、武道を散々習わされ、4人のパーティメンバーと共に国を追い出されるようにして魔王討伐へ向かった。
だけど、私は知っている。
魔族の人里襲来なんて2、3年に一度あれば珍しいくらいだ。それに、魔族といってもレベルは様々。人里に来る魔族なんか、弱いものばかりで、箒であっち行けしっしっ、とでもやったら勝手に逃げて行く。そんなので、被害なんて受けるわけがない。
この国が欲しいのは本当は、魔族が持っているという金銀財宝だ。それがあれば、今、財政難で悩まされている我が国も大黒字。諸外国に大きな権力を振るうことが出来る。
そんな私利私欲(いや、国利国欲?)のために命なんてかけられるか、という話だけど、後ろ盾も何にもない私が国レベルの大事に逆らえるわけがない。
そんなわけで、私たちは、魔族が作ったダンジョンを攻略しながら、魔王城へ向かっている。

『こんにちは、苺恋女(いちごれんにょ)さん。今日は、夜風が当たるバルコニーでパーティーをしました。お庭もお散歩したよ! この前、苺恋女さんがやったというので私も真似しちゃいました☆ では、また!』

あー、癒されるなー。
やっぱり、この人は良いなあ。多分、どこかの貴族とかで美少女なんだ。歳は、14から20歳くらいで、男からたくさん求婚されてるけど、いつか出会う王子様を待って、日々精進中なんだろうな。
私は、手紙の内容に癒されつつも、返事を書くためにペンを持ち直した。

「漆黒の紅蓮聖騎士乙女(ブラックブラッディパラディンメイデン)ねー。………… イタいわ、限りなくイタいわ」
「そ、ソフィア!?」

どんな書き出しが良いか、と考えていたところ、話の輪から戻ってきたソフィアが貰った手紙をひょいと取り上げる。
その内容と彼女のハンドルネームにまたため息をつくと、口を開いた。

私は、文通をしている。
もう半年にもなるだろうか。ある日、ダンジョン攻略した帰りに突然、私の肩に真っ黒な鳥が降りてきた。
その口には、手紙がくわえられており、私がその手紙を取ると、器用にも大人しく肩に居続けた。
手紙を開くと、そこには綺麗な文字で書かれた可愛い内容があり、思わず癒されかけた。
それが、ハンドルネーム“漆黒の紅蓮騎士乙女(ブラックブラッディパラディンメイデン)”さんとの出会いだった。
私はすぐに返事を書き、トールくんという名前の漆黒の紅蓮聖騎士乙女さんの鳥に手紙をくわえさせる。
すると数日後、返信が届き、それからは手紙のやりとりをしている。

「この名前も内容もイタい人と、同じく名前もイタくて嘘っぱち書いてるアリナは、何で文通してるの?」
「イタいって言うな! …… う、嘘じゃないよ」

じとーっと、私を眺めながらソフィアは手紙を折りたたむ。
それを封筒に戻したところで、私は口を開いた。

「へぇー、これのどこが嘘じゃないっていうのよ」
「うっ」

私の手紙の内容を指差すと、勝ち誇ったように告げる。
彼女の言っていることを認めざるを得ない状況になってきたところで、私は手紙をもう一度読み返した。

『こんにちは、漆黒の紅蓮聖騎士乙女さん! そっちもパーティーしたの!? 偶然だね! 私も今日、またパーティーしちゃったのです♡ 今は、お友達と乾杯してるよー! もしかして、同じパーティーだったり!?』

いいや、嘘じゃないぞ。
今、私パーティーしてる! 宿屋の食堂で庶民料理食べてるけど、これだって立派なパーティー! お友達のソフィアともさっきグラスカチンってやったし!
ただ、これをオブラートに包んでいるだけだ。向こうが思っているような、豪華なお屋敷で可愛いドレスを着ながらきゃっきゃという感じじゃないけだ、遠回しなだけだ。

「まあ、アリナもアリナだけど向こうも向こうよ。そもそも、漆黒の紅蓮聖騎士乙女…… えーと、ぶらっくぶらっでぃぱらでぃんめいでん? って何。黒いのか赤いのかどっちなのよ。しかも、紅蓮と書いてブラッディと読ませるイタさ…… レッドで良いじゃない、レッドで。赤イコール血なんて半端ないわねー、アンタの文通相手。内容も普通、記号なんて使うの!? いや、それはアリナもだけど」
「分かった、謝るからもうそれ以上言わないでー!」

アリナがツッこむところを一気にツッこんできた。
これ以上言われると、私の精神が壊れそうなので慌てて口を塞ぐ。

「はいはい。で、何で文通してるの?」
「だ、だって…… 可愛いから!」
「………… 可愛い?」

アリナが首を傾げると、私はうんと頷く。
…… うん、この反応は意味が分かってないな。

私は、可愛いものが好きだ。
15歳から18歳という青春真っ盛りの時を、戦いで終えてしまおうとしている。本当なら、私は街で出会った素敵なイケメンと恋に落ちていたはずだ…… いや、そこまでは言わないけど、勇者になんてならなかったら、私はもっと女の子らしくしていたはずだ。
町民らしい、質素だけど可愛いエプロンドレスに、様々な種類のリボン。巷で有名のお菓子屋さんでたくさんのスイーツを頬張っていたはずだ!
それなのに、勇者になんてなったせいで、毎日剣の修行か、ダンジョン攻略ばっかりだし! 当たり前だけど着るものはズボンと動きやすくした一部だけの甲冑や籠手だけだし!

「最近は、まともにスカートも着てないんだよ!?」
「____ あー、何となく分かったわ。後、今着てるじゃん。エプロンドレス」
「あ」

長い沈黙とその言葉に、何かを悟ったのかソフィアはつぶやくように言う。
そして、私が着ている下地が茶色いエプロンドレスを指差してそう告げた。

「あ、あはは、あはは、あはははは! それゆけ、トールくん!」
「逃げたな」

誤魔化すために大きく高笑いし、トールくんに返信の手紙をくわえさせる。すると、トールくんは逃げるかのように窓の外へと姿を消した。
ソフィアが放った言葉は、果たして私に言ったのか、トールくんに言ったのか。
そんなことを考えながら、夜は更けていった。


____________________


「んっ、ああああー!」

かけ声をかけながら、俺は執務室の机で大きく伸びをする。
目の前に広がる大量の書類にため息をつきながら、仕事へ戻るために再びペンを手にとったその時。
大きく開かれた窓の向こうから、鴉に似た真っ黒な鳥がバサバサと羽ばたきながらこっちに向かってやって来る。それに目を輝かせると、俺はペンを強く握った。

『こんにちは、漆黒の紅蓮聖騎士乙女さん! そっちもパーティーしたの!? 偶然だね! 私も今日、またパーティーしちゃったのです♡ 今は、お友達と乾杯してるよー! もしかして、同じパーティーだったり!?』

______ ああ、今日も癒される。

俺が魔王になったのは、5年前。617歳の誕生日だった。
別に、嫌だとかそういうわけじゃない。生まれた時から、魔王になるものと育てられ、俺もそれが当たり前だと思って育ってきた。
いくつかの政策を立てて財政問題を解決したし、少なくとも愚王ではない自信はある。
1年前、北にあるオーリア皇国が勇者を魔王城に向かわせたという噂を聞いた。
俺としては、人と争う気はないので勇者一行が魔王城へと来たら、気絶でもさせようと思っている。
数時間前、魔王城への道の最後となるダンジョンが勇者に攻略されたと知らせが来た。約1年で全てのダンジョン攻略とは早いものだが、それほど勇者は強いということなのだろう。
このペースなら、明日、明後日には勇者が乗り込んでくるか。
俺は、宰相に兵の準備を命じると、執務へと戻る。
もうすぐ勇者が来るというのにそんなことをしてて良いのか、という話だが、勇者がいくら強いとはいえ、こっちだってそれなりに訓練はしている。普通なら、そもそも勇者が俺のところまでたどり着く前に向こうが倒されてしまっていることが殆どだし、たどり着けても俺が倒してしまうことが多いのだ。
勿論、殺生などということはしたくないので、適当に気絶させて人里近くに運ばせているが。

『漆黒の紅蓮聖騎士乙女です! あはは、同じパーティーだと良いね。見知らぬ間に会ってたり、なんてね☆』

俺は、文通をしている。
性別を偽り、魔族ではなく人間としてだ。
設定では、金髪碧眼の18歳の少女。公爵令嬢で、男からの求婚は毎日。そんな中、心を許せる友人が欲しくなり、文通をしている、だ。
元々は、遊び半分だった。
面白いハンドルネームに、面白い内容。
こんなの、誰も返してくれるはずないと思いながら、伝書鳩のトールに手紙を運ばせた。
トールは、黒い羽と赤い瞳を持つので、皆中々鳩とは思ってくれない。基本、鴉と間違えられる。手紙にもそんなトールの注意書きを書いた。
返事を書く者が出来るまで、戻ってきてはいけない、と命じたのでもう一生、戻って来ないと思っていた。
ところがどうだろうか。3日後、トールは桃色の封筒を口にくわえ、俺の元へ戻って来た。

『初めまして、漆黒の紅蓮聖騎士乙女さん! 苺恋女といいます♪ これから文通、よろしくです!』

俺と同様に、ふざけた内容。
でも、向こうは一生懸命にこれを書いたんだろう。色々な記号を使って、便せんも工夫されていた。
きっと年頃の少女、13から19くらいの少女が書いたものなのだろう。
それを見た時、快感に似た何か____ これがいわゆる、“癒される”、“和む”ということなのだろう。
それから俺は、彼女と手紙のやりとりをしている。

今日も、手紙が来た。
どうやら、パーティーをしたらしい。
俺が真似たといういうことを知り、少しテンションが上がっていたのか、いつもより文字が乱雑になっている。
………… パーティーとはいえ、こっちとあっちでは大きな違いがあるのだが。
向こうは、庶民的ながらも賑やかなパーティーなのだろう。こっちはといえば、言い寄ってくる女と挨拶してくる貴族たちと心にもないことを言って終わるだけだ。

「行け、トール」

いつもの便せんをくわえさせ、トールを宙に放つ。
その言葉に一声鳴くと、トールは闇の中へと消えて行った。


____________________


「やっと…… やっとだよ!」

魔王城、最上階。
私は、後ろにパーティメンバーたちと頷き合い、魔王が待っているであろう部屋の扉のノブを握った。

翌日。
人族領の隅にあった宿屋から魔族領へと入った私たちは、魔王城へと向かい、待ちゆく魔物たちをどんどんと倒して行った。
そして、とうとう最上階。ここで魔王を倒したら、私はついに国へ戻れる。つまり、女の子らしいことが出来る!
打倒、魔王! 魔王絶対倒す!
心の中でそうかけ声をかけながら、扉を開く。

「フハハハハハ、待ちわびたぞ勇者よ! この俺、魔王シリル様が返り討ちにしてくれよう!」
「………… ま、魔王! ぜ、絶対倒すから!」

魔王の第一印象。限りなく、イタい。
円形の部屋の奥にある宝石やらで装飾が施された悪趣味な玉座に腰かけ、不敵な笑みで私たちを見下ろしている。
魔族らしい黒い髪に黒い瞳、身長も高いし、顔立ちも整っているのに、そんな言動じゃ台無しだぞ。
思わず魔王の台詞に引くと、慌ててその言葉に返す。
パーティメンバーも同じように完全に引いていて、特にソフィア何かはさっきまでのやる気満々な顔はどこへら、無表情で魔王を見上げていた。

「なっ、勇者……! 魔王様がお前ごときに負けるはずなどないだろう! この私、悪魔元帥ラフェルトが相手だ!」

私が聖剣を構え直すと、魔王を守るようにして立っていた銀髪の男が私たちに向かって言う。
確か、事前に調べておいた情報によると、彼が名乗ったように悪魔元帥の1人、ラフェルトだ。
魔王の忠実な部下で、4人いる悪魔元帥のなかで最も強いらしい。普通、悪魔元帥や他の幹部たちは個人個人で部屋を持っているのだが、彼だけは魔王の護衛役も兼ねているのか魔王の部屋にいる。魔王へ戦いを挑むにはまず、ラフェルトを倒さなければいけないらしい。
私は、聖剣に魔力を入れる魔法呪文を唱えようとすると、今にもこっちに襲いかかりそうなラフェルトを魔王が制した。

「待て、ラフェルト。お前は相手をしなくて良い」
「しかし、魔王様!」
「ラフェルト」

ラフェルトは魔王に言われたことが気に食わないのだろう。慌てたように返すが、魔王は鋭い眼力と言葉で止めた。
ラフェルトが落ち込むのも当然だ。だって、自分の主からお前いらない、と言われたようなものなのだから。
さすがに魔王には逆らえないのか、ラフェルトは押し黙った。

「さあ、勇者よ。戦おうではないか」
「………… 魔王、どういうつもり」

それにさあな、と涼しい顔をすると魔王は玉座から立った。
いよいよ、だ。


____________________


「魔王様、ダディエル様が勇者に倒されました!」

勇者がとうとう、城へ着いた。
今年の勇者は強いのか、ものの数時間で門兵から悪魔元帥までを倒していく。
そして今、部屋持ちの悪魔元帥であるダディエルが倒されたらしい。
悪魔元帥まで倒して、俺の元へとたどり着けた勇者は数100年ぶりなので俺の顔は密かにほころぶ。
久々の、腕のなりどころといったところか。
殺すわけではないが、俺は強いものが好きだ。強い相手と戦えるということは、素直に嬉しい。

ギイイイという扉がきしむ音がして、勇者一行が部屋へと入って来る。
それから、睨みつけるようにして早足で俺の座っている玉座の下まで歩いて来た。

「フハハハハハ、待ちわびたぞ勇者よ! この俺、魔王シリル様が返り討ちにしてくれよう!」

普段、言っている台詞を口にすると勇者一行は、1歩後ずさった。
多分、引いているのだろう。
…… 俺だって、この台詞がイタいと思われるのくらい知っている。
だが、先代魔王である父親もそう言えば勇者一行に隙が出来ると教えられたし、いつも言っているのでクセになっているのだ。
今も言うのは、恥ずかしいが。

「………… ま、魔王! ぜ、絶対倒すから!」

引いていたが、そこは勇者。
誰よりも早く我に帰ると俺に言い返してきた。
そういえば、今回の勇者は珍しく女だ。
色素が薄い栗色の髪に淡い緑の瞳。動きやすいように一部だけ鎧に身を包み、聖剣を俺に向けて構えている。
これはアレだ。黙っていれば美少女、という種類の人間だ。

「なっ、勇者……! 魔王様がお前ごときに負けるはずなどないだろう! この私、悪魔元帥ラフェルトが相手だ!」

今まで黙って俺の前に立っていた、悪魔元帥の中では最強のラフェルトがしびれを切らしたかのように勇者にまくした立てる。
勇者は一瞬、ラフェルトを見定めるかのように見ていたが何か分かったのか、ああ、とつぶやき小さく頷いた。
さながら、ラフェルトの情報でも思い出していたところか。

「待て、ラフェルト。お前は相手をしなくて良い」
「しかし、魔王様!」
「ラフェルト」

少し声音を低くして、ラフェルトを睨む。
すると、ラフェルトは悔しそうに口をつぐむと後ろへ下がった。

俺が勇者とラフェルトを戦わせなかった理由は、簡単だ。

試合観戦とか、ぶっちゃけメンドイ。

勇者の具体的な実力は分からないが、ラフェルトと互角、またはラフェルトより強いだろう。もしかしたら、本当に俺を倒してしまうかもしれない。
とにかく、仮にもラフェルトだって悪魔元帥最強と謳われた男だ。勇者に勝っても負けても、戦いは長期戦になることは間違いないだろう。その間、いつ襲われるかも分からない勇者一行たちを目の前にゆっくり見られるものか。
それなら、ラフェルトより最終目標である俺と戦った方がお互い楽だろう。

「さあ、勇者よ。戦おうではないか」
「………… 魔王、どういうつもり」

勇者が訝しそうに俺を見上げる。
さあな、とつぶやくと勇者は更に首をひねった。
今の理由を説明したら、バカにしているのかとでも言われること間違いない。まあ、元から言うつもりもなかったが。

玉座から立ち上がり、(まぶた)を閉じると魔力が充分にあることを確認する。
これから、だ。


____________________


「聖なる光よ、光なくして闇はあらず……」
「我が闇の僕たちよ、永遠の(とき)より目醒めし……」

魔族へ効きやすい光系の呪文を唱えながら、剣の中へ魔力をためる。
これで、戦って一突きでもしたら向こうはたちまち苦しむこととなるだろう。
魔王も私とは反対の、闇の配下を目醒めさせる呪文を唱えている。

「はああああっ!」

私が斬り込むのと同時に、後ろにいたパーティメンバーは魔王が喚びだした闇の配下と戦い出す。
私は魔王のいる玉座へと走ると、魔王に剣先を向けた。

「魔王、戦いなさい」
「勇者ごときに命令されるなど、この俺も落ちたものだな」

ふん、と鼻を鳴らせて相変わらずの不敵な笑みを浮かべる。
………… やっぱり、ムカつく。
うん、私はこんなのに倒されて死ぬ女じゃない! 早く倒して早く女子の夢を叶えるんだ!

「勝つからね」
「どうだか」

その言葉が引き金となり、私は魔王に斬りかかる。
魔王もそれを予想していたのか、防御魔法を使いながら私の剣を弾き、同時に攻撃魔法で私のお腹あたりに黒い液体状の何かがかすってきた。
防御魔法を張るくらいの時間もなく、それをギリギリで避ける。後、1秒でもこのままだったら私は間違いなく死んでいた。
やっぱり魔王だ。
今までの魔族とは、比べものにならないくらい強い。

そんな時。

「アリナッ!」
「ソフィア!?」

玉座から数段降りたあたりで闇の配下を光魔法で退けながら、負傷したパーティメンバーを癒していたソフィアが悲鳴に近い大声を上げる。
魔王と戦いながら、ソフィアへ一瞬顔を向けると、ソフィアは奥の窓のあたりを指差した。

「アンタの鳥が!」
「鳥!?」

また魔王へ向き直ると攻撃を無効化出来る防御壁(バリア)を張り、窓の方に視線を移す。
すると、そこには黒い羽に真っ赤な瞳の鴉に似た鳥____ 私と、漆黒の紅蓮聖騎士乙女(ブラックブラッディパラディンメイデン)さんの間を繋ぐ大事なトールくんがバサバサと羽音を立てて、こっちに向かってきた。
この前、出した手紙の返事か…………!
それにしたって、何でこんな大事な時に!?
トールくんは、更に音を立てながら羽ばたき
、私の方へと向かって来る。
魔王もそれに気付いたのか、大きく目を見開いていた。

「っ!?」

どんどんと急降下してくるトールくんは、私の肩にとまる。
トールくん、もしかして私と魔王を見間違えたとか!?

「魔王、その鳥をこっちに渡して!」
「何故、この鳥をお前に渡さなければいけない。第一、この鳥は俺のものだ」

そう言ってトールくんの頭を撫でる魔王は、本当に不思議そうに聞き返す。
確かに、トールくんは黒いし赤いし……
魔領にいる鳥は普通、こんなものだし。
もしかしたら、この鳥は、トールくんに似た別の鳥なのかもしれない。
そう考えながら戦っていると、私の頭に1つの作戦が思いついた。
もしかして、あの黒鳥がくわえている紙をとったら、魔王の弱味を握れるんじゃない?
多分、連絡用か何かで使っているのだろう。
魔領のことについての重要なことが書かれているのか、はたまた遠くにいる恋人か。
そんなことは分からないが、いずれにしろ、向こうは返せと言ってくる。

奪いやすい体制になるのを待ち、そこから一気に魔王へ近寄る。
肩に乗っている黒鳥のくわえている紙を素早く取ると、また元の位置に戻って、あらかじめ用意しておいた数分はどんな強敵でも破れない協力な防御壁を張り、紙を見る。
すると、どうやらそれは封筒で、手紙のようだった。
宛先を確認する。

『漆黒の紅蓮聖騎士乙女(ブラックブラッディパラディンメイデン)さんへ』

封筒を裏返し、送り主を見る。

苺恋女(いちごれんにょ)より♪』

それは昨日、私が書いた手紙そのもので。
決して、魔王何かが持っているものではなかった。

バァンッ。

防御壁が破れ、魔王が襲いかかってくる。
今までにないスピードで、顔を真っ赤に染めながら。

「勇者、それを返せっ!」
「………… 魔王。もしかして、漆黒の紅蓮聖騎士乙女ってあなたのこと?」
「ああそうだ、だがそれがどうした! おかしいか!」

ただ呆然と立ち尽くす私だったが、かなり前にかけた術が有効だったようで、間一髪で攻撃はまぬがれた。

「おかしくないよ。…… だって、私が苺恋女だから」

その言葉に魔王も、動きを止めた。

「______ は?」

結論。
推定年齢14から20歳、美少女で可憐な乙女と想像していた漆黒の紅蓮聖騎士乙女(ブラックブラッディパラディンメイデン)イコール、目の前の顔だけは良い魔王シリル。

つまり、私は魔王と文通をしていたというわけで。


____________________


「聖なる光よ、光なくしては闇はあらず……」
「我が闇の僕たちよ、永遠の(とき)より目醒めし……」

勇者が魔族には効果的と呼ばれる光魔法の呪文を唱える。
俺もそれに合わせ、個人個人の力が悪魔元帥と匹敵するという非常時しか喚び出せない闇の兵団、闇騎士(ブラックナイト)を召喚する呪文を唱え始めた。

人間の間では、光魔法は魔族に効くということになっているらしいが、実際、ダメージは他の魔法と比べても少し多いくらいだ。
一撃で倒せるとか、そんなわけではない。
だが、勇者一行はそれを信じているらしく、皆光魔法しか使っていなかった。
俺としては、戦いがある程度楽になるのでそのままで構わないが。

「はああああっ!」

俺が闇の配下を喚び出したところで、勇者が俺に向かって斬りかかってくる。
勇者は俺に、仲間は闇の配下へと戦うつもりらしい。
俺はそんな必死な勇者を焦らすために、わざと優雅にその場を歩く。
それが成功したのか否か、勇者は凛とした口調で俺に剣先を向ける。

「魔王、戦いなさい」
「勇者ごときに命令されるなど、この俺も落ちたものだな」

鼻を鳴らしながら挑発してみると、勇者は頭を抑えた。
…… 何だ、この態度は。
よく分からないが、凄くイライラする。
何故か、この勇者を倒してやりたくなった。

「勝つからね」
「どうだか」

そう言うと、勇者は予想通り斬り込んできた。
素早く防御魔法の呪文を唱え、勇者の聖剣をかわすと闇系攻撃魔法を使って勇者の腹を狙う。
これに当たれば、勇者は数秒後に気絶するはずだ。
だが勇者はそれを難なく避ける。
さすが、勇者と言ったところか。

「アリナッ!」
「ソフィア!?」

その時、下の方から声が聞こえる。
横目で見ると、治療魔法を使っている白い法衣の少女____ 僧侶なのだろう。
少女は甲高い声を上げ、奥にある小窓を指差した。

「アンタの鳥が!」
「鳥!?」

勇者は防御壁(バリア)を張ると、僧侶の少女が指した方向を見た。
そこには、漆黒の鳥が大きく羽ばたいていた。
伝書鳩のトールだ。きっと、返信が届いたのだろう。
それだって何故、こんな面倒な時に!

「魔王、その鳥をこっちに渡して!」
「何故、この鳥をお前に渡さなければならない。第一、この鳥は俺のものだ」

何故勇者が焦っているのかは分からないが、面白い。
俺は見せつけるようにしてトールの頭を撫でた。

「っ!?」

ほんの一瞬だった。
俺の横をすり抜けるようにして勇者がトールの口から手紙を奪い、俺でも中々破れない強力な防御壁を張る。

あれを見られたらマズイ。

俺は破壊魔法で防御壁をどんどん壊していくが、勇者は不思議そうな顔で封筒を破っていく。
俺の力では勇者の防御壁はすぐ割れず、結果。
宛先や送り主、内容を見られた。

最高に赤っ恥だ。
あんなもの勇者に見られたら、魔王としての威厳が……!

バァンッ。

ようやく防御壁を破れた俺は、今までにない勢いで勇者に襲いかかっていた。

「勇者、それを返せっ!」
「………… 魔王。もしかして、漆黒の紅蓮聖騎士乙女ってあなたのこと?」
「ああそうだ、だがそれがどうした! おかしいか!」

こうなれば意地だ。
威厳などは後だ、まずはこれを取り返すことに専念しよう。
だが、勇者は防御壁を張り、その中から俺を見つめる。
嘲笑される。
そう覚悟しながら防御壁を破ろうとしていたが、そこで勇者にかけられた言葉は意外なものだった。

「おかしくないよ。…… だって、私が苺恋女だから」
「______ は?」

その瞬間、俺の動きは止まる。

頭が混乱しすぎてよく整理出来ない。
俺の脳内では、苺恋女は庶民ながらも頑張る健気な15から19の少女だった。
だが、勇者の言う通りにまとめてみると、その健気な苺恋女は目の前の武闘派残念美少女の勇者で。

俺は、勇者と文通していたということで。

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