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もう一度だけでいい、
大好きな貴方の背中が遠ざかってしまうその日に、貴方がいなくなってしまうこれからの時間を想像しただけで耐えられなくなって、思わず手を伸ばした。
絡まるはずの手は空振り、いつも流れていた温かな空気はどこかへ消えてしまって、目頭が熱くなる。
戻ってきて、戻ってきて。
こっちに来て嘘だよと笑いながら、頭を撫でて。
どうか、もう一回。
一度だけでいいから、私のほうを向いて。
「 」
貴方の名前を呼ぶ。
いつものように、くるりと向き返る貴方。
気づいたように目を逸らし、すぐに立ち去ってしまった。
今度こそ振り返ることなく消え去ったことが、悲しくはあるけれど。
けれど、振り返ってくれたから。
それだけで私は笑えます。
それだけで涙を拭って違う道へと歩き出す事が出来るのです。
そうやって一所懸命歩いていった道の先で、気づかないうちにすれ違い、なんて事があったりして。
淡い期待を押しやりながら、片鱗も見せぬ未来へ顔を向け、今日も私は最後に見た貴方の姿を思い出すのです。






