お姫様の憧れ
くるくる回る。くるくる回る。
すり抜けていく風を、掴もうとするかのように。
大きな風を起こし、どこかへ飛び去っていきたいと言わんばかりに。
「なーにやってんの」
「んー?」
くるくる回る。まだ回る。
今度は逆回り。流れる視界に肌色が消える。変わりに空の青。
「気分悪くなるよ」
「んー、大丈夫」
「第一、なんでいきなり回ってんだよ」
「そーだねえ・・・・・・うあぁ」
ぱたん、と崩れ落ちた。
馬鹿め、と鼻で笑った声が頭上で聞こえる。
ぐるぐる回る。まだ回っているような気がする。
「気絶してたら、誰かが起こしてくるかな」
「五時限目サボる気? どーぞご勝手に。怒られるのはお前」
「薄情者ー」
何とでも言え、と彼は乾いた笑いを漏らした。
「・・・・・・誰かが起こすって、何」
「なにって、何」
「こっちが聞いてんの。もしかして、あれか? 白雪姫とか眠り姫とか、そーいう?」
「ふふっ。そーだねー。いつか王子様が迎えに来てくれるのーとか、そーいう?」
夢物語だよね、なんて自嘲するように先に言うと、今度は乾いた笑いは漏らさず、そーだなとぽそりと言った。
うつ伏せたままだから、表情は分からないけど。
「ううう、気持ち悪い」
「・・・だーから言ったのに」
続いてしまった沈黙を振り切るように漏らすと、少しだけほっとしたように彼は優しく頭を撫でてきた。
眠りそう、と思ったら五分だけだぞ、と釘を刺される。
王子様じゃなくていい。
ずっと傍にいて、やがて起こしてくれるのが君であったなら。
いつか湖の近くに、小さなお家を建てて一緒に住みたいね、なんて。
瞬間。おいまさか本気で寝たんじゃないだろうな、と焦ったような声が聞こえてきた。
もう。雰囲気ぶち壊しで本当にダメな王子様。
だからいいんだけどね。
お姫様なんか似合わない大雑把な私と、王子様の余裕なんて欠片もない心配性なあなた。
いつか本当の王子様とお姫様になれるでしょうか。