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No Trouble No Life  作者: 久里ワタル
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 男、十九歳、中卒、親なし。

 これだけ聞いて良識ある読者が想像するのは、まあ同じだろう。そう、負け犬。

 でもおれはそれほど人生に悲観はしていない。むしろ毎日はすこぶる楽しい。派手な柄のハンカチで汗を拭き、携帯電話を耳にあてながら早足で歩いているサラリーマンなんかをみると、自分は幸せものだと強く思う。おれにはあんな生活は無理だ。多分ストレスで一週間で死ぬと思う。高齢者に多い、今流行り(?)の孤独死。

 もちろん基本的に年中金はない。ごくたまーに大金を得ることもあるが、それもすぐに使ってしまうため、基本的にはその日暮らしだ。

 定職に就いていないおれがこの未曾有の不況のなかで一応喰っていけてるのは、おれの仕事のおかげだ。トラブルシューター、おれ的にはスイーパー。まあ簡単に言えば、依頼人が困っていることを解決する。ドラマなんかみたいに格好良い仕事じゃないけど、家だってないわけじゃない。六畳(一応風呂、トイレつき)のアパートを借りてる。ここの大家さんとは、ある事件を解決した時のお礼として(この事件もなかなか面白かったから、そのうち話すよ)、この部屋をタダで借りてる。タダより怖いもんはないって世間じゃ言われてるけど、そんなことはない。タダはやっぱりありがたいもんだ。

 こんな感じで、色んなところでいろんな人に助けてもらいながらおれは日々生活している。

 食うものも金もない時には、公園でホームレスのおっさんたち(いつの間にか友達になった)に食料を分けてもらったりもする。その代わりおれに金が入ったときはその金で宴会をするのは当たり前の話だ。ホームレス数十人、多い時には百人を超えるときもあるが、とにかく楽しく酒を飲み続ける。次の日には再び無一文になってるが、そんなことは関係ない。こんなに楽しい飲み会はだれにもできないだろう。

 依頼っていったって、小さなものから大きなものまで手広くこなしているが、報酬はまちまちだ。現金で三百万(おれは小切手は貰わない)の時もあれば、ビー玉一個の時だってあった。すべては相手次第だ。さすがにヤクザが絡むと腰がひけるけど。

 おれが仕事(といえるかどうかは分からないが)をしているのは、夕陽市ってところ。人口が二百万人ぐらいの県の県庁所在地。多分実際にはもっといると思うが、日本でもけっこう大きな街の一つだと思う。

 二百万以上も人間がひしめいているんだから、そりゃあいろんな奴がいる。純真無垢な子供から、ヤクザ、風俗嬢やホスト、そんな奴らが抱える問題を、できる限り取り除いてやってる。もっとも、断るときもあるけどね。

 それで、今回の依頼人は小学生。なけなしの金であろう五千円札を、くしゃくしゃに握りしめて俺の目の前に現れた。目の下を真っ赤に腫らしたそいつは、みるからにいじめられっ子って感じ。顔や腕に不自然なほど青紫のあざがあったから、そう考えるのは当然だ。夏が過ぎ、まだまだ暑さが残る季節に、そいつは目を伏せて、小さな体を震わせながらおれにいった。

「あの……ワタルさんですよね? 僕を……僕をいじめられなくしてください……!」

 やれやれ、なんとも楽しそうな依頼がきたもんだ。

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