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離婚できないなんて…  作者: マーたん


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第七章:それでも生きていく

物語には、終わりがあります。


けれど――

人の人生には、終わりがありません。


出会いがあり、別れがあり、

選んで、間違えて、また選んで。


その繰り返しの中で、人は生きていきます。


この物語も、一つの区切りを迎えました。

けれどそれは、“終わり”ではありません。


ここから先に続くもの――

まだ語られていない未来があります。


そして、その未来は、

もうすでに始まっています。



子供の声


「ねえ、ママ」


 小さな声が、部屋に響く。


「ん?」


「パパって、どんな人?」


 一瞬、時間が止まる。


 奈緒は、少しだけ考えてから笑った。


「優しい人だよ」


「今のパパ?」


「……ううん」


 首を振る。


「昔のパパ」


「ふーん」


 子供は少し考える。


「会ったことある?」


「ないよ」


「そっか」


 あっさりした返事。


 でも――


「でもね」


 奈緒が続ける。


「あなたがここにいるのは」


 優しく、頭を撫でる。


「その人がいたからだよ」


「……ほんと?」


「うん」


 子供は少しだけ笑う。


「じゃあ、いい人だね」


「……そうだね」


 奈緒も、少しだけ笑った。


 窓の外、夕日が差し込む。


 静かな時間。


 穏やかな空気。


 もう、分ける必要のない日常。



第七章:それでも生きていく


 離婚届は、思っていたよりも軽かった。


 紙一枚。


 それだけで、終わる。


 あれだけ続いた関係が、

 あれだけ悩んだ時間が――


 たった一枚で、切れる。


「……これで、終わりだな」


 役所を出て、そう呟いた。


 隣には、奈緒がいる。


「うん」


 短い返事。


 でも、どこか穏やかだった。



「じゃあ」


 奈緒が言う。


「ここで」


「ああ」


 それだけ。


 引き止める理由はない。


 もう、夫婦じゃない。



「……ありがと」


 奈緒が言った。


「何が」


「全部」


 少しだけ笑う。


 でも、その目は赤い。



「……お前もな」


 それしか言えなかった。



 奈緒は背を向けて歩き出す。


 一度も振り返らない。


 そのまま、人混みに消えていった。



(終わったな)


 そう思った。


 ようやく、全部。



 * * *


 それから一ヶ月。


 生活は、驚くほど普通だった。


 仕事に行って、帰って、寝る。


 誰にも縛られない。


 誰もいない部屋。


(……静かだな)


 それが、少しだけ寂しかった。



 ある日。


 スマホが鳴った。


 見慣れた名前。


 ――奈緒。


 指が止まる。


(今さら、何だ)


 少し迷って、出る。


「……もしもし」


『あのさ』


 奈緒の声。


 久しぶりなのに、すぐ分かる。



『会える?』


 短い一言。



 * * *


 指定された場所は、公園だった。


 夕方。


 人は少ない。


 ベンチに、奈緒が座っていた。



「久しぶり」


「……ああ」


 少しだけ距離を置いて座る。


 妙な空気。


 他人みたいで、そうじゃない。



「どうした」


 先に聞く。


 奈緒は、しばらく黙っていた。



「……あのね」


 声が、少し震えている。



「私」


 言葉を選ぶように。



「子供、できた」



 時間が、止まった。



「……は?」


 思わず、声が出る。



「神谷の子」


 はっきりと言った。



 頭が真っ白になる。


 理解が追いつかない。



「……なんで今、それを」


「言うか迷った」


 奈緒は俯く。


「でも、ちゃんと伝えたかった」



「……俺に言う意味あるのか」


 少しだけ、声が荒くなる。



「あるよ」


 奈緒は顔を上げた。



「あなたがいたから」



 その言葉に、何も言えなかった。



「私、一人じゃなかったから」


 ゆっくりと続ける。


「逃げずにここまで来れた」



「……それは」


 言葉が詰まる。



「ありがとう」


 奈緒が言う。


 静かに。



 胸の奥が、ざわつく。


 嬉しいのか、悲しいのか、分からない。



「産むのか」


 やっと出た言葉。



「うん」


 迷いはなかった。



「……そうか」


 それだけしか言えない。



 しばらく、沈黙が続く。



「ねえ」


 奈緒が言う。


「怖い?」



「……正直、少しな」



「私も」


 小さく笑う。



「でも」


 一拍置いて、


「今度は、逃げない」



 その言葉は、強かった。


 前とは違う。



(変わったんだな)


 そう思った。



「お前なら、大丈夫だろ」


 自然と、そう言っていた。



「……ありがと」



 夕日が沈む。


 長い影が、伸びる。



 もう一度、隣を見る。


 奈緒は、少しだけ穏やかな顔をしていた。



(これで、本当に終わりだ)


 そう思った。



 でも――


 同時に、こうも思う。



(まだ、続いてるな)



 形は変わった。


 関係も変わった。


 でも、完全に切れたわけじゃない。



 それでもいい。



 それぞれの人生が、続いていく。


 交わらなくても。


 どこかで繋がっていなくても。



(それでも、生きていく)



 そう思った。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


『離婚できない男 part2』は、

“優しさ”という名の逃げと、

“選ぶこと”の難しさを描いた物語でした。


主人公は最後に、自分の意思で関係を終わらせました。

奈緒もまた、自分の中のすべてを受け入れ、前に進みました。


そしてその先に、新しい命が生まれる。


それは過去の延長でありながら、

まったく別の未来でもあります。


誰も完全には救われていません。

でも、誰も止まってはいません。


それが、この物語の答えです。


ここで一度、物語は幕を閉じます。

しかし登場人物たちの人生は、これからも続いていきます。


またどこかで、交わるかもしれません。

あるいは、交わらないまま進んでいくかもしれません。


それでも――


物語は、続きます。



登場人物とその後


相沢あいざわ 恒一こういち


離婚後、一人の生活を選ぶ。

最初は空虚さに戸惑いながらも、

少しずつ“自分のための時間”を取り戻していく。


過去に縛られず、誰かに依存せず、

自分で選ぶ人生を歩み始めた。


奈緒や子供と再び関わるかどうかは――まだ分からない。



相沢あいざわ 奈緒なお


離婚後、子供を授かり、新しい人生を歩む。

かつて分けていた感情を受け入れ、

“ひとりの人間”として生きるようになる。


過去を否定せず、それでも前に進む強さを持つ。



神谷かみや


奈緒の子供の父親。

関係を壊す役割を終え、その後は奈緒と共に生きる道を選ぶ。


しかし彼自身もまた、

“壊す側だった自分”とどう向き合うかという課題を抱えている。



■ もう一人の奈緒


奈緒の中にあった感情の象徴。

現在は統合され、個としての存在は消えている。


だが、その記憶や感情は確かに奈緒の中に残り、

彼女の一部として生き続けている。



■ 別の女


主人公に“逃げ道”を提示した存在。

彼の選択を試す役割を果たし、その後は連絡を絶つ。


再び現れるかどうかは不明。

だが彼女もまた、別の物語を生きている。



■ 子供


奈緒のもとに生まれた新しい命。

過去のすべてを直接は知らないが、

確かにその延長線上に存在している。


無垢でありながら、物語の“続き”そのもの。



物語は続く


終わりは、始まりでもある。


別れは、断絶ではなく、分岐。


それぞれの道が、別の未来へと繋がっていく。


誰かと歩む道もあれば、

一人で進む道もある。


正解はない。

ただ、“選び続けること”だけがある。


そして――


その選択の先に、新しい物語が生まれる。

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