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折に触れて廻る2  作者: 馬場 ヒロシ


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1/1

第一部  時間

幸せな時間を過ごすことができたヒロシだったが、忽然と消え去った幸せ・・タイムスリップが引き起こした事象は最悪の事態になる。

ある日だった。

男はどうしようも無く疲れ切っていた・・


その男は駅のホームに佇み、通り過ぎていく電車を虚な目でただ眺めていた。

無力感と堕落感・・生きている価値

全て・・今、この瞬間に思うことは、陽射しがとにかく暑いし、着ている服が汗まみれだ。その事だけ。

過去に思いを馳せ、何度となくゴールを目指し旅をした。だが末路が変わらないし、必然の様に敷かれたレールに戻されて意気消沈する。

最期に第一の人生に戻り、幸せを噛み締めながら生きた2年間・・だが、夢を見ていた様に奈落の底に突き落とされ、皆・・消えていった。泡の如く・・

どうやら夢?だった・・かもしれない。

いいや・・悪夢への序章を見せられたのかもしれない・・

男はそっと定期入れを手に取り見つめ静かに涙した。

彼の妻が還暦祝いに買ってくれた財布と定期入れだ。

お金に困っていないこの時期・・ブランドものをプレゼントされ、彼はまるで生まれて初めてのプレゼントの様に感動したのだった。

だが・・次の日に妻は消えた。子供達も・・

置き手紙やメモすら残さず、3人は忽然と姿を消してしまった。

しかも・・不思議だが

3人のことを知る人さえ居ないのだった。両親も兄弟も男が生涯独身貴族だったと言うのだった。

男は家の中を隈なくチェックした。3人がここに生きていた証しを探すため。

だが妻の嫁入り道具も、寝具も化粧品や洋服の入った洋服箪笥まで・・全て消えていた。

子供達の部屋は暗がりの物置になっていた。

男は昨年、芸能事務所の会社を退職したが、会社の社長に会い妻や子供達のことを話したが、両親と同じ返答だった。

ただ・・3人が消えた日は、ある接続点であることが後で分かり男は多々調べていた。

この日、男はある一つの答えを導き出した。

自分若しくは3人が別の次元に飛んでいってしまった・・かもしれない・・と。

超越した男のタイムスリップは、多くの人の人生を変えてしまい、本来の妻であった女性はあの世に旅立っていた。

導き出した答え・・分かっても、どうにもならない事にこの日気付いたのも確かだった。


駅に佇みただ時間の経過を感じていた。

もう・・タイムスリップは・・できない。

方法も分からない。

しかも、仮にタイムスリップができたとしても、どの次元に行くかも分からない・・

3年前のあの10月・・俺は堕落した人生を変えられず、誰からも愛されるどころか憎まれ、最期に自らの命を絶った。だが・・そこから幾度もの長い時間旅行を行い、自分のしてきた行いや裏切りを噛み締め、やり直す道があった・・その時は。

男はタイムスリップの最後を思い出していた。

「あの時・・恵美との暮らしは無いと思って裂け目に呑まれた。だけど気づくと恵美や子供達がいた・・」

最初の人生ではさゆりが居たが、最後の幕には彼女が存在しなくなった。

男がタイムスリップしている間に、癌で逝ってしまったのだった。だとすると・・恵美も朱音も本来の場所に戻って生きている・・?

逝ってしまったさゆりの存在が消えてしまい、自分が独身なんだとすれば、恵美は隣町に今も住んでいる?

朱音は駅前のスーパーで品出しをしている?

男はふっと感じた。

「・・正当か。これで元に戻ったんだ。いいんだ・・」男は落胆したが、正直に現実と向き合おうと思ったのだった。

男は家に戻り1人分の食事を作り食べるのであった。

風呂に入り歯磨きをして、ベッドに入り眠るのであった・・そして夢を見る事なく目覚め、テレビを観ていた。

男の名前は無論だが、谷ヒロシだ。

幾度となくタイムリープを経験して、好きな女とここに戻った・・そう錯覚した男だ。

ただ・・確かに高校時代の思い出や、大学の失敗に堕落したはずの人生は存在していたはずだ。

さゆりも恵美も朱音も・・だが全て夢だったのだと思い耽っていた。

ヒロシは昔のアルバムを広げ見入った。

中学生の時の写真はほとんど無い。高校生時代はバンド活動で体育館で演奏する姿や、陸上大会での長距離走の写真と・・多々あり、大学時代は遊びに行った避暑地の写真などバラエティに跳んだ写真が多かった。

その後の写真は何故か?ほとんど無い・・無論だが新聞店の写真も社会人になってからの写真も・・一枚もだ。「違うやつに綴じたのか?」

ヒロシはしばし探したが見つからなかった。

そんな探す最中・・ふと一枚の写真が本の間から落ちてきた。

「うん?いつの写真だろう?」

ヒロシはしばし写真に見いいったが、次の瞬間にハッと思い目が釘付けになった。

「俺の高校生時代に恵美と撮った写真・・」

そこにはヒロシと恵美が2人でジャムパンを齧る姿を撮った写真だった。

「妙に・・おかしい。写真に映り込む後ろの風景に違和感がある・・」

確かにそうであった。その写真が撮られたのは1980年の9月だ。それなのに変なものが映り込んでいた。

「コンビニ?だ。この辺りにコンビニが出来たのは1900年頃だ。でも・・何故?セブンイレブンが?」

写真には小さいが僅かに確認できるサイズで写っていたのだった。

「不思議すぎる・・歪みが生じている。」

ヒロシはさっき見ていたアルバムを広げ、一枚一枚確認をし始めた。

そこでヒロシは感じ取った。

「過去に歪みが起きている・・。バンド活動で使っていたギターはフェンダーの2002年モデル・・陸上大会の走る写真に大学生で出会う筈のユウジが・・」

ヒロシはさっきまで気付かなかった。ぱっと見で分からないが、よく見ると自分には分かるあり得ない写真。写真という紙なのに残された過去が歪みきっていた。信じ得ない事だった。

「そうか・・俺や恵美が繰り返した人生が全てに歪みを与えたらしい・・やっぱり駄目なんだ。過去を変えてしまうのは」

ヒロシは自身のわがままから起きたタイムリープによって、他の人の人生まで変えてしまった事に落胆した。だが・・もう戻すことはできない。ヒロシはただ只々・・後悔をしたのだった。

今朝、ヒロシが気づいたある接続点・・。

それは10代で撮った筈の新聞店での写真・・そこに見覚えのない男が映り込んでいる事に気付いていた。

半年前のことだ。

家族で昔のアルバムを広げ見ていた時に恵美が話しかけた。「ヒロシ君が十九の頃だよね。確か・・埼玉の浦和で新聞配達してた頃。・・若いねえ」

そんなことを恵美が言っていた。

しかし娘のヒカルが「うん?お父さん・・この人・・なんかお父さんに似てるね!こんな人居たんだ」

彼は写真を凝視して確認した。

(これは・・何なんだ。俺じゃないか・・しかも社会人になったばかりの頃だ・・いったい)

彼だけが分かった事実である。その男が着ていた服が彼自身で十九の頃に購入した物だったからだ。

彼は「本当だね。俺にそっくりだ。・・確か湯浅さんだったと思うよ」

彼は咄嗟に嘘をついた。

ヒロシはこの時に思った。タイムリープだと思っていた次元超越は実はタイムスリップだったのではないか?と。

過去に行き過去を生きたけど、実は本来の自分がもう1人いて、本来の人生を生きていた。

だとすると・・この写真はあり得ない・・

写真は本当の人生では撮っていない。

この写真は第二の人生で進むべき大学を変え、二度目の新聞店での出来事だ。最初の人生でこの時の写真が無く、撮っておくべきだと後悔した。

それで第二の人生で新聞店の送別会でみんなで撮ったのであった。


ヒロシはどうもあの19歳の時にお世話になっていた新聞店が、おかしな事象の接続点ではなかったのか?そう思っている。

だとすると・・今の自分は本来の次元では無い次元に存在するのではないか?そう考え始めた。

だが駅のホームに佇み続けていた。

新聞店があった場所に何度も行ったが、何も起きなかったし、そもそもその場所が接続点なら理由がある筈だった。しかしそこには思い当たる節も、思い当たる人も想定できなかった。

彼はどこに向かうべきかを毎日考える様になっていたが、残りの人生をこのまま生きることを選択した。


ある夏の暑い午後だった。

ヒロシは暑い家を避け喫茶店で過ごしていた。

60過ぎの体には今年の暑さは耐え難いものだった。

ヒロシはアイスコーヒーを飲みながら、過去の出来事を思い出していた。幻の様に妙に懐かしく、妙に現実的な事象・・それも本来の出来事ではなかったのか?偶像に造られたトリックの様な世界だったのか?ヒロシは暫く考え落ち込むのだった。

先日ふと思ったこの世界と現実との接続点・・確かにあの浦和のどこかにある筈だ・・ヒロシは一度は諦めたが、再び同じ感情に囚われた。

「恵美や子供達に会いたい!無理だと分かってはいるが、接続点と飛ぶ方法が分かれば、会える可能性は低いが会える・・筈」ヒロシは独り言を呟きながら、過去に刺された事で次元を超越した点を思い出した。

今・・同じことをすれば・・確実に死ぬだろう。

だが・・今生きているこの世界に居ても、生きてる価値が分からない。そう思うのであった。

「そう言えば・・」ヒロシは思い出した様に目を瞑った。

(そう言えば、第二の人生から最後の人生まで、俺や恵美が刺されても、直ぐに治ってしまった。それはその次元での偶像な事象だとしても、おかしかったのは、怪我をして入院までしたのに、周囲の人があっという間に忘れているということだ)

ヒロシは傷の完治が早いということよりも、周囲の人が誰も気にしていなかった・・という事だ。新聞店の人たちも刺された事実を口にしなかった事。なぜ?

恵美の両親に結婚を申し込んだ時にも、彼女が刺された話題を出したが、恵美の両親がきょとんとしていた。

(まるで刺された事件とその次の瞬間が別世界の様に、誰もが無関心というより知らなかったのだった。何故だったんだ。普通は心配でならない筈だ)

ヒロシは気づいた・・不思議な事象に。

「そうだったんだ。俺や恵美が朱音が刺されたり、自分で刺したりすることで、それまでがリセットされていたんだ。3人だけ。だから俺が刺された事も傷が癒えることで両親には記憶に残らないし、新聞店にも連絡をしなかったんだ。だとすると・・」

ヒロシはある仮説を立てた。あり得ない仮説だ。

刺されて傷が完治に向かうのは、本来の世界の自分は刺されていないからだ。恵美の事象も同じだ。そう考えた。

だと仮定すると・・刺された時にもう1人の自分が存在している。一方で刺されて病院に行く自分と、一方では何も無かった様に家に帰ったり、新聞店にいる自分だ。そうだとすると・・刺された分岐点を契機として、別々の人生が流れた事になる。

「気がつかなかった・・刺されて心配する両親や友人に、恵美は知らずに刺された俺を見ていたんだ。じゃあ・・本当はどっちが正解の人生なんだ?その後は二つの道が各々進んだのか?分からない。」

ヒロシは不思議な事象に気づいたが、結論を出せなかった。それは何故か?

単純な理由だ。今、こうして考えている自分は本来、この世に存在しないのではないか?既に本当の自分の人生は終焉を迎えているのではないか・・そう考えると絶望感に陥ったからだ。

家に帰りヒロシは考え疲れて夕方に眠ってしまった。

どれぐらいの時間眠っていただろうか?

周囲は暗闇だった。

重い体を引きずるように起き上がり、居間のソファーに座りさっきの仮説を考え直していた。

(さっき考えた事はナンセンスだ。2人の自分が存在する訳はない。刺された痛みも傷が癒えていく過程も、自らのこの体で感じている。ああ・・ならどうして)

ヒロシはもう一度整理する様に考えた。

(今まで中学生時代が一番辛く、そこで恵美に会って生き方を変えた。だけど・・第二の挫折時そう、まさしく19歳の失敗の時・・救ってくれたのがあの新聞店だった。ある意味では恵美が救ってくれた様に、あの場所が再度俺を救ってくれた。やはり、あの場所に何かある・・)

日差しが窓から差し込み朝を迎えていた。

ヒロシは最後のつもりで、電車を乗り継ぎあの場所に再度行く事にした。

駅前に出たが周囲は変貌していた。だがあの公園は昔と変わらずそこに鎮座しており、多くの親子連れや昼休みだと思われるサラリーマンの憩いの広場であった。公園の中は40年以上前から変わっていなかった。

「ここは何も変わっていない・・あの百貨店や良く梅酒を買って飲んだ酒屋はなくなったけど、ここはあの日の自分が勉強に行き詰まり、息抜きをした日々と変わってないや。・・この道を抜け、坂道を登り新聞店があった場所付近だ」

ヒロシは何度か来たこの場所を克明に覚えていた。

だがそこには家が立ち並び、当時過ごした作業場も寝泊まりした母屋も無くなっていた。

「やっぱり・・ここには何も無いし感じない」

ヒロシは再び落胆し引き返そうと思い電柱に手をかけくるっと身を反転させた。その時にヒロシは電柱のプレートを見て驚いた。

「えっ?!前島町・・5丁目?・・おかしいなあ!確か新聞店のあった住所は大山町7丁目だった筈・・なのに

前島とはありえない。というか、この辺りは大山町じゃ無いのか?」

ヒロシは不思議と思い暫くその周辺を歩きまくって、住所と辺りの風景を確認した。狭い範囲だが、大山町と前島町が入り組んでいた。ヒロシは大山町の7丁目周辺を細かくぶら付き探した。

そこにある小さな公園があった。

ヒロシは何故か引き込まれる様にその公園のベンチに座った。携帯で現在位置を確認しようとしたが、電波が立っていなかった。

「おかしい・・こんな街中で携帯の電波が入らないなんて有り得ない・・でもああダメだ」

公園の目の前には保育園があり、その隣に小さな雑貨店があった。ヒロシは喉の渇きを覚え、雑貨店前の自販機でコカコーラを購入した。公園のベンチに戻り座り、コカコーラのペットボトルを捻り開け飲んだ。

その時だった。ヒロシにある光景がフィードバックされて来た。

(過去に・・そうだ第二の人生の初日。

喉が渇き自販機でコーラを買い、令和の100円硬貨を使った。何故?年号まで覚えてたか?というと、1982年で2023年のピカピカしたコインが使えるか?を迷っていたからだ。でも・・)

ヒロシはコーラを飲み考え込んでいたが、保育園の前で会話する70代後半か80代と思われるお婆さん2人の会話が耳に入ってきた。

「そうそう・・ここにあったのよね新聞店」

「うん。そう」

「でも悲劇だったわね。旦那さんがバイクで死亡事故起こして、補償で家も店も持っていかれちゃって。奥さんもお子さんも・・路頭に迷ったわ」

「そうよ。娘さん大学生だったから、急に呼び戻されて・・結局は住む場所が無くなってた・・3人で出ていったわね。かわいそうに、またアメリカに留学するって言ってたのにね」

ヒロシはハッと思い2人に近づき慌てて聞いた。

「すみません!急に」

「何ですか?」

「今の話ですけど、佐藤新聞店のことじゃ?」

「そうですけど。何か」

2人は首を傾げ聞いてきた。

「・・ああ、その新聞店にお世話になっていた事があるんです。久しぶりに来てみたら、店が無くなっていて驚いちゃって・・」

「えっ!いつ頃なの?」

「1982年の4月末から翌年の3月までお世話になりました。浪人生で大学行く勉強と新聞配達をさせていただいてました」

「・・1982年 お名前は?失礼だけど聞いていい」

「全然いいですよ。谷ヒロシと言います」

「あゝやっぱり。兄が言っていたヒロシ君」

「私を知っているんですか?不思議だな」

「私の兄は西方です。その頃そこにいましたよ」

ヒロシは驚いた。まさか西方さんの兄妹に会えるとは・・何と世間は狭いのだと思った。

ヒロシはその西方さんが昨年92歳で亡くなった事や、佐藤主任も最近に他界したと噂があった事を確認できた。奥さんと娘さんのことは分からないとの事だった。

「・・そうですか、西方さんが・・お悔やみ致します。佐藤主任も近くに住んでいたんですか?」

「いいえ・・暫く遠くに居たらしいけど、何年か前にこの近辺で見かけた・・そんな話を聞いたわ。それで確か先月だったと思うけど、知合いから亡くなったって聞いたの」

ヒロシには衝撃だった。短い時間だったが、あれだけお世話になった方が寂しく逝ってしまい、心残りがあったと思うとやるせない気持ちだった。

2人のお婆さんはヒロシに手を振り帰っていったが、彼は再び公演のベンチで座り考え込んだ。

「自分が思っていた場所がここで、店が無くなった原因やその後の事もある程度分かった・・でも」

結果的にここには何も無いことに気づいた彼は、どうやら本当に今ここが現実の世界だと思い知らされた。

ヒロシは重い腰を上げ駅に戻ろうとしたが、一つ思い出した事があった。

(そうだ公園・・この公園じゃなく駅前の大きな公園・・そこに埋めた。)

ヒロシは急ぎ足で駅前の公園に戻り「ああ・・確か入り口から5本目の木の下だった」

ヒロシは大きく育った樫の木で足を止めて、根っこを覗き見た。

「硬いな、この土カチカチだ」

木の根元付近を掘ろうとしたが、夏の日照りと太い根っこで手では掘れなかった。

隣の砂場に子供達が遊んで忘れていったと思われる、オモチャのシャベルがあり、ヒロシはそれを借り受け掘ることにした。

「・・うう、硬いけどこれなら掘れそうだ。・・う?・・あった!これだ」

50センチ程度掘って出てきたのは、小さな煎餅の入っていた鉄製の箱だ。40年以上の経過で、箱はぼろぼろだったが、中身は大丈夫そうであった。

ヒロシはそれをビニール袋に入れ、持ち帰るのだった。無論だが掘り戻しをしてシャベルも元の場所に戻した。

家に戻り庭先で袋を開け箱をそっと開けた。

「おお!あった。44年前の俺の手紙」

ヒロシは新聞店を去る際に、一通の手紙を自分宛に書いたのだった。それはこれからの人生に迷って苦しくなったら、掘り出して読もうと離れる前夜に書き、目印の樫の木の根元にそっと埋めていた。

「今まで・・全然思い出せなかった。何度もあの場所に行っていたのに・・」

ヒロシは箱の中のぼろぼろになったケースを開け、3枚ほどの便箋を出した。

そこには当時の苦しさや悲しみ、悔しさや憎しみが書かれていたが、紛れもなく19歳の若い自分が赤裸々に表現されていた。

(元気か?俺・・何歳になった?ちゃんと生きているか?今日は1983年の2月19日土曜日だ。明日、俺は一度家に帰り25日に静岡県に行く。何か・・想定外の大学だろうけど、今はこの俺にピッタリの学校かもな。

ここにきて生きてきた。また・・頑張ろうと思わせてくれた。・・悔しくて辛くて、自分が情けなくて、最初はどうにでもなれ!と思っていたけど、みんな優しくて・・俺の傷を癒してくれた気もする。恵美とはどうなった?結婚できたか?それとも違う人か?

高校生の時別れたけど、今でも俺は彼女が好きだ。この事だけは一生変わらないと思う。だから諦めるなよ俺。でも彼女が誰かと結婚したら諦めな。諦めも肝心だから。でも希望があれば彼女と結婚しろよ。絶対に幸せになるだろうから。

俺・・今思うんだ。将来、自分が堕落してるだろうな?って。だってここで酒もタバコも覚えたし、金持ちになる夢ばっかり見てた。失敗・・そう失敗だらけの人生を歩むかもしれない・・。だからこの手紙を読んだ自分に言いたい。過去にああすれば良かった・・とか、あの時、この道を選択すれば良かった・・そう思うな!人生は変わることのないレールだから、選択したことは変えれないし変わらない。だから認める。そうやって生きて欲しい。ただ・・この瞬間も自分のレールを走ってるんだろう・・そう思う。いつか・・自分の終焉を迎える日が来たら、この日が1番大事な日だと気づくよ。それまで走り続けな!俺。

1983年2月19日土曜日 19時15分  谷ヒロシ)

ヒロシが想像した内容ではなかったが、タイムスリップがありえないことであり、選択を変えれない事が克明に書かれていた。

「まったく・・大昔に俺、分かっていたんじゃないか。人生を変えれない事も全ての責任を背負うことも。なのに・・俺は。なんて事をしてきたんだ。今が結果だ」

彼は40年以上前から分かっていたと気づき、今の現状を改めて受け入れようと心に決めた。


ヒロシは手紙を読み終えると、ポケットからライターを出し、手紙に火をつけ燃やした。

「ありがとうよ。やっと気づいた。モヤモヤした気持ちの整理がついた。これから今を受け入れて最後まで谷ヒロシとして生き抜くよ!」

独り言を呟きながら燃える手紙を見つめた。

その燃え上がる炎は美しく見え、過去の抗いを流すようだった。

その瞬間だった!!

炎が大きくなりヒロシの服に飛び火した。

「おお!どういう事だ!あちゃー!」

手で飛び火を消そうとしたが火が服全体に広がり出し、消せなくなった。ヒロシはある程度悟り「あゝ、そうか・・これが最期なんだ。・・こんな終わり方とは。何ともやるせないけど、受け入れなきゃ・・」

ヒロシは身体中が火だるまに包まれ、最期を迎えるのだった。


だが・・どういうことか?ヒロシの体の炎は突然に消え、燃えた筈の服も元通りであった。

「夢?それともあの世?」

ヒロシは正気に戻り足元を見たが、びっくりしたのだった。

「えっ?夜?いつの間に日が暮れたんだ!それに妙に寒い。真夏のはずなのに、どういうことだ。」

ヒロシは家に入り上着を着ようとしたが、そこには家はなく、木々が立ち並んでいた。

「・・あゝ!公園?あの公園だ」

ヒロシはあの手紙を埋めた公園に瞬間移動していた。

「これは絶対に夢だ。悪夢だ!ああ・・寒い」

ヒロシがブルブル震えていると誰かが寄ってきた。

「谷さん・・こんな薄着で何やってるんですか?風邪ひきますよ」

声のする方を見たヒロシは驚いて気絶をしてしまった。

そこにいたのは新聞店の娘であったエミリだった。

倒れたヒロシに声かけするもヒロシは気を失ったままであった。「谷さん!谷さん!しっかりして」

どれくらいの時間が過ぎたであろう。ヒロシは暖かいと思い目が覚めた。

(俺?どうしたんだ。確かに・・夢を見て、誰かを見て驚いて倒れたな・・確かに彼女だ。昔に見た彼女の顔だった。「まあいい・・燃えて消えなかっただけ」

「何が燃えたんですか?」

ヒロシは驚き目を開けた。

「えっ?・・ここは?・・どこ?」

「何言ってるんですか?谷さんの部屋ですよ」

そういう声でまた驚き横を見た。

「な・な・何で君が横に寝てるんだ!しかも下着で」

エミリは起き上がり、ジーンズを履きセーターを着込んで言った「だって・・谷さん倒れて家まで連れてきたけど、寒い寒いって言うから、お母さんに暫く見ていてって言われたの。お布団被せたけどそれでも寒いって言うから・・人肌作戦を使ったわ。ダメ?・・ですよね」

「ダメに・・決まってるよ。若い女性が下着姿でおじさんの布団に潜って・・」

彼女は目を丸くして「・・おじさん?誰の・・こと?ですか?」

「俺に決まってるだろう。俺のほ・・かに?・・えっどういうことだ。腕に筋肉がある。足にも毛がある。それにアソコがビンッとしてる・・」

「きゃー嫌らしい!どこ見せてんですか!」

彼女は徐にヒロシのアソコを見てしまった。手のひらで顔を隠していたが、指の隙間から見ていた。

「あゝ!ごめん。余りにも元気がいいんで・・つい」

ヒロシは再び自分に起きた事象に戸惑っていたが、今度こそは夢だろうと思っていた。

(若返りは何度も経験したが、この場面とは・・)

ゆっくりと部屋の状態を確認したヒロシは、彼女に尋ねるのだった。

「ねえ、彼女。今日って何年の何月何日です?」

「・・彼女って、私にはエミリというちゃんとした名前がありますよ。もう覚えてください」

「ああごめん。エミリさんだったね」

「まったく・・えっと今日は82年の5月3日月曜です。ぼっとしてるんですか?」

「82年って1982年?」ヒロシは慌てて聞いた。

「当たり前田のクラッカーです。3082年とかじゃないですよ。」

「・・古い。余りにもギャグが・・」

「古いって、1982年が?」

「そうじゃなく、当たり前田のクラッカー・・死語」

「ええっ!古くないわ。70年代のギャグだもの・・でも死語って・・何?」

「まあいい・・それよりどうしてエミリさんは俺の横に寝てたんだ。会ったばかりだよね」

「うーむ、簡単ですよ。寝不足で谷さんの様子を見ていたら私も眠くなって、そしたら途中で寒くなって、布団に潜って、谷さんの肌に触れ気づいたら下着姿になってた。・・でも変なことはしていませんよ!」

「それこそ当たり前田のクラッカーだよ。あり得ないよ、会ったばかりで嫌らしいことなんか」

2人は赤くなりながら笑うのであった。

次の日・・

ヒロシは朝の3時に起き、作業場に降りていった。

ここにきて1週間だ。

「おはようございます」

「ああ谷君おはよう!」佐藤主任が生きている姿でいた。ヒロシは泣くのを抑えて新聞を自転車に乗せるのだった。

「寒いなぁ・・よく俺はこんな事ができたな!今更ながら思う」ヒロシは真っ暗な夜道を自転車でひたすら配達をした。

「しかし・・あの子・・不思議ちゃんだよな?あの後俺が眠るとまた横に潜って、すやすや寝てた。しかもまた下着になって。それにそっと俺のイチモツを手で触ってた・・変態ってこと?まあ何度目かの人生で、付き合った事あったけど・・最初の人生では俺にいい顔していなかったはずだけどね」

ヒロシはエミリの変な行動を気にしていたが、理由はあるにせよ1982年に戻れたことに感謝した」

配達を終え店に戻ると、高崎からの出稼ぎ人である湯浅さんがタバコをふかしながら言ってきた。

「よう!若いの!早くも主任の娘といい関係?やるね!・・まあ見た感じ、背も高いし顔も日本人離れでモテそうだわな!」

「えっ?何言ってんですか。そんなんじゃないですよ。別に俺はエミリさんに好意あるわけじゃないですよ。勘違いです。」

「そうか・・でもずっと部屋にいたよな。なに・・をしてたんじゃ?」

ヒロシは慌てて昨夜の事を湯浅に説明したのだった。

「あゝ・・そう?まあいいや。そのうちだ」

湯浅は意味ありげにそう言い、またタバコをふかしながらヒロシを舐めるように見たのだった。

そこに佐藤主任の奥さんがきて「2人とも朝ごはん食べて!片付かないから・・」

湯浅は「おお!行きますよ」と言いタバコを灰皿に入れ母屋に向かった。

ヒロシも行こうとしたが佐藤主任の奥さんが「ちょといい?谷君」と話しかけてきた。

「あゝ・・はい」ヒロシは手に付けていたゴム手袋を外し答えた。

「ねえ?谷君・・言いづらいけど」

ヒロシは昨夜のエミリとの事を詰問されると思い覚悟した。

「いいえ、どうぞ言って下さい。覚悟してます」

「何?覚悟って」

「エミリさんのことですよね。・・ごめんなさい」

奥さんはきょとんとしたが話を続けた。

「うん・・ごめんね。変なことされたでしょ?・・あの子ちょっとおかしいのよ。あなたが初めてここに来た日、急に御めかししたり、薄いけど化粧したり。と思ったら勉強に没頭したりして・・。何かあなたを意識している様に見えるの。だから許してやってね!面倒だけど構ってあげて。昔から友達少なめだし、この職場の下宿人もおじさんばかり・・だから。歳が近いあなたに興味を示してるみたい」

ヒロシは唖然とした。確かに第一の人生でも同様な事があった・・がしかしエミリが自分に興味があるとは奥さんも言いたそうで言わなかった事だ。

仲良くなりすぎれば、一年間限定でここに居るヒロシにとって悩みになっていく。

ヒロシはよく良く考えていた。自分で手紙に書いたように、分岐点を変えれない・・だから、第一の人生と同じ様に過ごそう・・そう思うのであった。


続く

焼け死んでしまった筈が若返り?自分への手紙が引き金となり、、再び過去に戻ったヒロシだったが・・

これからどうなるのか?期待と不安だらけだ。

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