第24話 彼女は押しました
「…………」
裏口から外に出ると、茜は振り返らず、後ろ手で扉を閉めた。
さあ。
ここからは、ゲームの時間だ。
「……必ず、助けるから」
だから、生き延びてほしい。
茜はすぐに『中腰』になると、裏口の目の前にある裏門に張り付いた。
さっと周囲を見回し、周囲にゾンビがいないことを確認する。
かちゃり、と裏門の門扉を開き、路地に出た。
「……この路地は、巡回ゾンビが入ってこない、限定的な安全地帯です。とはいえ、向こうの道路から覗き込まれるとバレちゃいますので、気を付けていきましょう」
やることは、決まっている。
まず、この路地は安全だ。音を立てない限り、巡回型のゾンビがわざわざ覗き込むような場所ではない。
じっとしていれば、ゾンビに見つかることはない。
ただ、路地自体は袋小路だ。移動するには、道路に出る必要がある。
まずは、ここを完全な安全地帯にする必要がある。
「さて、行きますか。佳子ちゃんの安全は、私が守ります」
彼――彼女は、そう宣言して歩き始めた。
◇◇◇◇
道路の手前まで歩いてくると、彼女はそこで『しゃがんだ』。
「ここで、不用意に身体を出すとゾンビに見つかってしまいます。必ず、周囲を確認しましょう」
しゃがんだ状態で、茜は周りを見渡した。
ひとまず、見える範囲にゾンビはいない。
だが。
『――キイィエエェェアアアァァァーー!!』
「お、おなじみの暴走特急ですね!」
5秒も経たないうちに、遠くから叫び声が聞こえてくる。
そう。
北明新町名物の、ランナーゾンビだ。
「運がいいですね。これで、しばらく警戒しなくて済みます」
ランナーゾンビは、十数分を掛けて同じコースを周回している。そのため、位置を把握していない場合は、いちいち警戒しておかなければならないのだ。
『ァァアアアアアイイイィィィァァアアアァァ――!』
ランナーゾンビが、道路を走り抜けていく。
はち切れんばかりに膨らんだ太ももとふくらはぎ。極端な前傾姿勢で、元人間とは思えない速度で、ランナーゾンビは通り過ぎていった。
「さて……」
だが、道路を移動するゾンビは、ランナーゾンビだけではない。
時間が経てば、老人散歩ゾンビや母親ゾンビ、子供ゾンビなど、いろいろなゾンビが姿を現わすだろう。
「まずは、この路地を隠してしまいましょうねぇ。お、あんなところにおあつらえ向きのワンボックスカーがありますね!」
ゾンビの姿がない事を確認し、茜はワンボックスカーに『走って』近寄った。
「はい、この車はカギが掛かっていないので、はい」
茜は、運転席のドアをガチャリと『開ける』。
そのまま中に入ると、サイドブレーキを『解除する』。
そして、シフトレバーを『操作して』、ニュートラルに変更した。
「よし、これで車を動かせますね」
残念ながら、茜は車を運転することができない。
いや、正確には、エンジンを掛けるとゾンビが大量に寄ってくるのだが。
茜は運転席を降りると、車の後ろに回る。
そこから、全身を使って車を『押した』。
平地の道路のため、ワンボックスカーは、ゆっくりと動き出す。
「ぬぬぬぬぬ……」
とはいえ、ワンボックスカー自体は非常に大きい車だ。
小柄な茜が全力で押したところで、ジリジリとしか進まない。
そうして数分、茜はワンボックスカーと格闘し。
「ふううう……」
のろのろと動くワンボックスカー。遂に、最初に出てきた路地を隠せる位置まで、その車体を移動させることができた。
「ここで、運転席まで歩きます。走ると見つかりますからね」
ランナーゾンビの聴覚無効効果は、既に過ぎている。不用意に『走る』と、周囲のゾンビが駆け寄ってくることになる。
のろのろと動くワンボックスカーの運転席まで茜は歩いて移動すると、運転席でブレーキーを『踏み』、サイドブレーキを『使い』、シフトレバーを『操作して』、パーキングに変更する。
「さて、これでこのワンボックスカーは動かなくなりました。第一関門突破です!」
これで、路地はワンボックスカーによって塞がれた。人ひとりがすり抜ける程度の幅はあるが、外からの視線は完全に防ぐことができるだろう。
「では次に行きましょう」
一仕事を終え、茜は運転席から飛び降りた。そのまま振り返り、車のドアを閉める。
その瞬間。
『ぁあアアたたかタカいイぃタかいネェぇえエェぇー!』
ドアが閉まった音に反応し、腰の曲がった老人のゾンビが、近くの路地から飛び出してきた。
「おっと!」
老人ゾンビが出てきたのは、車のリア側にあった路地。
茜は、すぐに身を翻すと、車のフロント側に回って視線を切った。
「運が悪い! とはいえ、まあまあの確率でご老人が走ってきますので、慌てず隠れましょう。足は遅いので、少々大丈夫です」
そのまま『中腰』になると、茜はその場で待機する。
『あたタタかぁイぃネエぇえあぁさいキンさいきんハぁああたタタかたかたかアー!』
だんだんだん、と老人ゾンビの足音が近付いてくる。
「足音の大きさで、どこまで近付いてきているかが分かります。はい。そろそろですかね」
そう解説しながら、彼女は『中腰』で車の反対側に回り込んだ。
ストックが尽きてしまったので、投稿頻度が遅くなるかと思います。
毎日投稿を継続できる方々を、本当に尊敬します……!




