第12話 彼女は全力で取り組みました
「基本、ゾンビの視界に入らないように立ち回れば、このステージは簡単にクリアできます。母親ゾンビはしばらく戻ってきませんし、ご老人散歩ゾンビは、後ろを歩けば気付かれません」
ご老人散歩ゾンビの真後ろをゆっくりと歩きつつ、彼女は解説を続ける。
「気を付けないといけないのは、区画切り替えのタイミングですね。区画には設定されたゾンビが必ず複数体存在します。区画内にいる分には、区画内ゾンビだけに注意していればいいんですが、境界付近は、隣接区画のゾンビに発見される可能性がありますので」
ご老人散歩ゾンビが、曲がり角を曲がる。
ここが、この区画の境界なのだ。
彼女は、そのまま、真っ直ぐ歩いて次の区画に入った。
そして、歩みを緩めないまま一直線に、電信柱の影に辿り着く。
「はい」
茜がその影で『しゃがんだ』瞬間。
別の曲がり角から、新たなゾンビが現れた。
「点検ゾンビです。電信柱の点検をしていますね」
そのゾンビは、彼女の隠れる電信柱を、やや離れた場所から見上げているようだ。
「これ、単に張り付くだけだと、見つかっちゃうので要注意ポイントですね。必ず、このゾンビの前では『しゃがむ』を実行しましょう。しゃがんで隠れれば見つかりません」
作業服を着た点検ゾンビはしばらく電信柱を眺めた後、ふい、と踵を返した。恐らく、次の点検ポイントに向かうのだろう。
「はい、点検ゾンビはこれでOKです。次に行きましょう」
別の路地に点検ゾンビが入ったのを確認し、彼女は立ち上がった。
「この先にはまた老人散歩ゾンビが居ますので、すこーし気を付けて。まあ、走ったりしない限りは気付かれないので、あまり気にする必要はありませんけども」
そう解説しつつ、彼女は前から歩いてくる老人散歩ゾンビの視界に入らないよう、道路の反対側に移動。そのまま民家の塀に『張り付いた』。
「とはいえ、さっき言ったとおり、視界は3mくらいありますので。この路地だと、反対側に行ってもギリギリ掠めるんですよね。なので、通り過ぎる瞬間だけはこのように、塀に張り付きましょう」
老人散歩ゾンビが、通り過ぎる。その1秒後、彼女は張り付きを解除し、歩き始めた。
「で、この区画で一番危険なのは、実は徘徊ゾンビじゃ無いんですよね」
その歩みの先には、塀の無い一軒家があった。路地に面した側には駐車スペースがあり、小さな庭を挟んでリビングが全面開口となっている、開放的な構造だ。
そして、そのリビングに、住人らしき人影がある。
「在宅ゾンビです。とても開放的なので、路地から丸見えなんですよね」
路地から見えると言うことは、ゾンビからも視認できる。
それが、このゲームの設定だ。
それゆえ、無防備にこの家の前を通れば、在宅ゾンビに襲われることになるだろう。
「危ない構造ではあるのですが……」
だが、彼女は、無防備にその家の前を横切った。
当然、その姿はゾンビに視認されてしまう。
「――――!!」
茜の姿を視認した在宅ゾンビが、叫び声を上げて突進する。
そして、巨大な窓に衝突し、ひっくり返った。
「実はこの家の窓、強化ガラスみたいなんですよね。なので、あのゾンビは無視して大丈夫です」
ゾンビはすぐに立ち上がり、窓に張り付く。叫びながら窓を殴るが、声はほとんど聞こえず、ガラスも割れない。
「まあ、びっくり要素ですね。あのゾンビは。このお家の防犯性能が高くて助かりましたねぇ」
「――――!!」
音もなく狂乱するゾンビを横目に、彼女は家の前を通り過ぎるのであった。
◇◇◇◇
『ZOMBIE - ゾンビ』は、様々なギミックやエピソードが各所に散りばめられた大作だ。エンディングに至るルートは複数存在し、その難易度も様々である。
そして、それぞれのルートには複数のサバイバーがおり、固有のストーリーが設定されている。
進むルートが違っても、別ルートのサバイバーは独自にエピソードが進行する。
それぞれのエピソードが複雑に絡まり、プレイヤーの選択によりサバイバーは善にもなり、悪にもなる。
そんな重厚なストーリーが売りと強調されて展開された本作だったのだが、蓋を開けてみれば紛うこと無き死にゲーであった。
いや、もちろんそのストーリーは確かによく練られており、予告通りの重厚さであったのだが。
それよりも、死にゲーとしてあまりにも凝りすぎており、執念すら感じるその作り込みに、多くのプレイヤーが匙を投げることになったのである。
まあ、そこに投げ込まれたノーミスクリア解説動画が大バズりしたことによって、『ZOMBIE - ゾンビ』は再び脚光を浴びることになったのだが。
死にゲーは、ギミックさえ理解できればクリアできるようになっているものだ。そして、本作はドット単位のプレイヤースキルを要求するような、別方向の高難易度は求めていなかったのである。
ある程度のプレイヤースキルがあり、ギミックを理解すれば回避できるよう調整された難易度。
もちろん、ゲームとして選択できる難易度は複数あったが、最高難易度である『終末』であっても、いわゆる“詰み”になるようなギミックは排除されているのだ。
恐らく、開発者が調整に心血を注いだのだろう。
そんな異様な熱量によって作り上げられたゲームであったからこそ、一本の動画が起爆剤となり、発売から半年を過ぎてからランキングを駆け上がるという謎の挙動を見せることになったのだ。
そしてもちろん、その最初の動画を投稿したのは、今まさに主人公の茜となって世界を走る彼――彼女であった。
本話で、第1章は終了となります!
続いて第2章に入りますので、引き続きお楽しみください。
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