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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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五界同時混乱 ――選択肢が消えていく

境界の揺らぎは、等しく、同時に、五界へ届いた。

猶予はない。

どの世界にも、「様子を見る」という時間は残されていなかった。


天使界


最初に崩れたのは、判断だった。


聖律は存在している。

だが、適用できない。


同じ行為に対し、

善と断ずる演算と、

罪と断ずる演算が、同時に立ち上がる。


秩序判断が、分岐不能に陥っていた。


「……命令は?」

「どちらが正なのですか?」

「誰が決めるのですか?」


答えは、どこにもない。


天使たちは初めて、

**“命令なき善”**に直面する。


自ら選ぶことを前提にされていない存在は、

善意そのものに耐えられなかった。


翼を震わせ、

空中で停止したまま、

何もできずに堕ちていく者もいる。


秩序は崩れていない。

だが、動けなくなった。


精霊界


精霊界では、

世界そのものが呼吸を乱していた。


自律循環はまだ回っている。

だが、調和が保てない。


水脈が過剰に潤い、

森が一斉に芽吹き、

その直後に、枯死が始まる。


本来なら、

精霊王の座がそれを調停していた。


今は――

美香の翻訳が、かろうじて均衡を繋いでいる。


「……待って」

彼女は世界に向けて、静かに言葉を流す。

「まだ、決まってない」


もし彼女がいなければ、

精霊界は善意のまま暴走し、

自らを食い潰していただろう。


霊界


霊界は、長く沈黙を選び続けてきた。


語らないことが、

世界を壊さない唯一の方法だと知っていたからだ。


だが今、

沈黙の意味そのものが消えた。


境界が薄れ、

生と死の距離が曖昧になる。


見守る者であるはずの霊たちは、

もはや「外」に立てない。


介入せずに存在する、という立場が、

構造上、維持できなくなった。


霊界は初めて、

発言するか、消えるかの岐路に立たされる。


獣界


境界の消失は、

最も露骨に現実を変えた。


資源が流れ込む。

水も、食料も、土地も増える。


だが同時に、

競争は極端化した。


捕食と生存の速度が加速し、

弱肉強食が、もはや循環ではなくなる。


「弱いから淘汰される」のではない。

選別が暴力的になっただけだった。


獣界は理解する。

これは自由ではない。

管理を失っただけだ。


人間界


最も静かな混乱は、ここにあった。


誰も命令を出さない。

だが、誰も責任を取らない。


管理者だったはずの組織は瓦解し、

代行判断の仕組みも消えた。


「誰が決めるんだ?」

「何を信じればいい?」

「今、正しいのはどれだ?」


人間界は初めて、

決定権の空白と向き合う。


選択肢が多すぎるのではない。

選択肢が、次々と消えていく。


五界すべてに共通していたのは、ひとつだけだった。


待つ時間が、もうない。


管理も、沈黙も、先送りも、

すべてが限界を迎えている。


世界は、問いを突きつけられていた。


――誰が、選ぶのか。

――そして、何を壊す覚悟があるのか。


カウントダウンは、確実に進んでいた。

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