ガーディアン本部の崩壊 ――管理という幻想の終焉
最初に沈黙したのは、警告音だった。
常に何かしらの異常を告げ続けていた本部中枢が、
不意に――あまりにも唐突に――
「何も言わなくなった」。
監視網、断線。
抑止機構、応答なし。
調停プロトコル、実行不能。
境界神設計による制御システムは、
一斉に、連鎖的に、役割を放棄していく。
「停止じゃない……」
霧亜が解析ログを睨みつける。
「順次終了処理です。
自分が“もう不要だ”と判断している」
誰かが破壊したわけではなかった。
敵の侵入でも、裏切りでもない。
設計寿命を迎えただけだった。
中枢ホールに亀裂が走る。
境界演算盤――
五界の均衡を数値として束ねてきた巨大構造体が、
演算途中のまま停止し、光を失っていく。
最後に残ったログが、空中に投影される。
《平和維持フェーズ:進行中》
《再統合リスク:遅延成功》
《次段階――》
そこで、文字列は途切れた。
未完。
最初から、最後まで辿り着く設計ではなかった。
夜宮は、崩れ落ちるホールを見つめたまま、
しばらく言葉を失っていた。
瓦礫の向こうで、
かつて世界を俯瞰していた場所が、
ただの空洞へと変わっていく。
「……守っていたんじゃない」
誰に言うでもなく、夜宮は呟く。
「遅らせていただけだ」
ガーディアンは悪ではなかった。
世界を縛ろうとした暴君でもない。
ただ、
選択を先送りにし続けた組織だった。
統合か、分断か。
救済か、破壊か。
どれも決められず、
決める資格を持つ者を育てることもできず、
ただ時間を積み上げてきただけだった。
そして今、
時間は尽きた。
本部の崩壊と同時に、
五界の空が、同じ歪み方で揺れる。
管理という幻想が終わり、
世界は初めて、
自分で答えを出さなければならない段階に入った。
夜宮は通信を開く。
「……全員、聞け」
その声には、もはや組織の威厳はなかった。
だが、はっきりとした決意だけがあった。
「これ以降、
俺たちは世界を“管理”しない」
瓦解する本部を背に、
彼は言い切る。
「人間として、選択に立ち会う」
――管理の時代は、終わった。




