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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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健太郎の前進 ――人間の選択宣言

健太郎は、一歩前に出た。


それだけで、戦場が変わった。


彼の足元から、ゼロ化領域が静かに広がる。

暴力的な発光も、世界を裂く演出もない。

ただ、確実に――効かなくなる。


五界魔力が、意味を失う。

虚界由来の反応が、輪郭を保てなくなる。

篠原サクヤの幻操もまた、優先順位を書き換える力を失い、

概念はただの言葉へと還元されていく。


戦場は、もはや戦場ではなかった。


そこにあるのは、

崩れた地形と、冷えた空気と、

人間が立っているという事実だけ。


篠原は、舌打ちも、苛立ちも見せなかった。


「……なるほど」


彼は、静かに健太郎を見る。


「これが“無効化”か。

 統合も、分断も、意味も、全部一度止める」


健太郎は、答えない。

代わりに、さらに一歩進む。


篠原との距離が、縮まる。


「だがな」


篠原の声は、相変わらず冷静だった。


「統合も、翻訳も、結局は延命だ。

 壊れるべき世界を、言葉で縫い止めているだけだ」


それは、彼なりの誠実だった。

世界を救わない代わりに、嘘もつかない。


健太郎は、止まった。


視線を逸らさず、まっすぐに言う。


「それでも選ぶ」


短い言葉。

だが、逃げの余地はない。


篠原の眉が、わずかに動く。


健太郎は、続けた。


「世界がどうしたいかじゃない」


五界でもない。

精霊界でもない。

虚界でもない。


「誰かが設計した“最善”でもない」


教団の救済代理を拒む。

境界神の設計思想を拒む。

虚界の衝動的な否定を拒む。


健太郎は、ここで初めて、はっきりと言い切った。


「統合するかどうかは、

 世界じゃなく、俺たちが決める」


主語は、明確だった。


人間だ。

代理でも、媒介でも、翻訳装置でもない。


選択の責任を、

自分たちの手元に引き戻す宣言。


ゼロ化領域の中で、

篠原の思想は否定されない。


だが、拡張もされない。


それはここで、止まる。


篠原は、しばらく黙っていた。

そして、わずかに息を吐く。


「……やはり、お前たちは」


笑いでも、嘲りでもない。


「世界を、信じているわけじゃないな」


健太郎は、首を横に振る。


「違う」


「世界を信じるかどうかを、

 自分たちで決めるってだけだ」


ゼロ地点に、言葉が残る。


均しも、救済も、設計もない場所で。

人間が、初めて――

世界の前に、主語を取り戻した瞬間だった。

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