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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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87/111

篠原サクヤの現在地 ――教団でも、世界でもない場所

境界断層地帯は、地図から名前を奪われた場所だった。

五界いずれの管轄にも属さず、虚界の残滓だけが薄く滲み、空間そのものが「決めかねている」ように揺れている。


そこに、篠原サクヤはいた。


教団の標章も、ガーディアンの階級章も身につけていない。

彼の周囲に展開されているのは、防御陣でも祭壇でもない。

境界を固定しない、半端な構造体――拠点というより、断絶点だった。


彼は戦争に参加していなかった。

どの界にも肩入れせず、どの勝敗にも関心を示さない。

篠原がしているのは、ただ一つ。


世界から、一歩引くこと。


そして、引いたまま、切ること。


五界戦争の混乱は、彼にとって好機だった。

境界が揺らぎ、管理が崩れ、誰も全体を見ていない。

その隙間に、彼は自分の場所を作った。


介入のためではない。

調停のためでもない。


――断絶のためだ。


篠原は、統合を否定していた。

だがそれは、境界神が守ってきた「分断維持」への回帰ではない。


彼にとって、統合とは救済ではなかった。


「統合は、弱者が救済を外注するための幻想だ」


誰かが決めてくれる。

誰かが均してくれる。

誰かが責任を引き受けてくれる。


その期待そのものが、世界を腐らせた。


では分断はどうか。

それもまた、彼には耐え難いものだった。


「分断は、管理者が選択から逃げた結果だ」


均せないから切り分ける。

守れないから閉じ込める。

壊れる前に、見ないことにする。


その積み重ねが、五界という歪な安定を生んだ。


だから篠原は、どちらも選ばない。


彼が望むのは、均しだった。

だがそれは、救済としての均しではない。


選別も、翻訳も、意味づけも行わない。

正義も、悪も、必要も、不要も与えない。


ただ一度、すべてをゼロに戻す。


五界も、虚界も残らない。

境界も、物語も、役割も消える。


意味のない、名前のない「ゼロ地点」。


そこに立てるものだけが、生き残る。

そこで生き延びたものだけが、次を作る。


篠原が否定しているのは、世界ではない。

破壊ですらない。


彼が拒絶しているのは、

「世界を選び直す主体が存在する」という前提そのものだった。


誰かが選ぶから、争いが起きる。

誰かが決めるから、歪みが残る。


ならば――選ばなければいい。


その結論に、彼自身も含まれることを、篠原は理解していた。

だから彼は、どこにも属さない。


教団でもない。

世界でもない。


ただ、断絶の中に立ち、

世界が自分で立ち上がるか、潰えるかを見届ける者として。


境界断層地帯に、風が吹く。

その風は、どの界のものでもなかった。


篠原サクヤは、その中で静かに目を閉じる。


――均された先に、何が残るのか。

それを、選ばずに見るために。

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