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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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美香に突きつけられる二択 ――用意された正解を拒む

静寂が、選択肢として提示された。


それは声ではなかった。

問いですらない。


既定の分岐。

後継機構が、淡々と差し出す最適解。


美香の意識の前に、二つの“収束点”が浮かび上がる。


ひとつは、完全精霊化。


痛みは消える。

老いも、恐怖も、個人という輪郭も、すべてほどけていく。


寿命という制限から解放され、

精霊界の流れと完全に同調する存在。


世界の声は、常に明瞭だ。

迷いも、ためらいもない。


だが――

そこに「美香」はいない。


人格は機能へと還元され、

彼女は精霊界の完全な代弁装置になる。


もうひとつは、人間への収束。


結晶化は停止する。

精霊コードは沈黙し、能力は失われる。


長くは生きられない。

今まで体内に蓄積された歪みが、静かに寿命を削っていく。


世界の声は、二度と届かない。

風も、地脈も、精霊界のためらいも、ただの“背景”に戻る。


それは安全で、理解しやすい結末だった。


――どちらかを選べ。

――どちらかを捨てろ。


世界が、何度も繰り返してきた判断。

安定のために、片方を切り落とす思考。


美香は、しばらく黙っていた。


恐怖はなかった。

悲しみも、怒りもない。


ただ、はっきりとした違和感だけがあった。


これは――

誰かのために用意された正解だ。


彼女は、ゆっくりと息を吸う。

結晶化した指先が、わずかに震えた。


そして、静かに言った。


「……どっちも、違う」


後継機構が、初めて反応を遅らせる。


美香は続ける。


「私は、精霊になりたいわけじゃない」


その言葉には、拒絶があった。

だが憎しみはない。


「でも、人間として

何も聞こえない世界に戻る気もない」


選択肢そのものを、彼女は否定していた。


完全であること。

無力であること。


その二極しか想定していない思考体系を、

美香は真正面から拒んだ。


沈黙が、再び場を満たす。


後継機構は混乱しているわけではない。

ただ――


想定外の入力を受け取っただけだ。


世界が用意した答えではなく、

“個人の意志”が、ここで初めて割り込んできた。


美香は、まだ結論を提示していない。

だが、この瞬間、ひとつだけ確かなことがあった。


彼女はもう、

用意された正解をなぞる存在ではなかった。


世界が選ばせようとした二択を、

彼女自身の言葉で、

はっきりと拒んだのだから。

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