五界戦争の再定義 ――偶発ではなく、必然
原初記録層の光が、静かに収束していく。
霧亜は、膨大な情報の奔流から意識を引き戻し、深く息を吐いた。
そこには、怒りも恐怖もない。
ただ、理解してしまった者だけが持つ、冷えた確信があった。
霧亜
「……五界戦争は、誰かが起こした異常事態じゃない」
彼女の声は低く、淡々としている。
だが、その言葉は、周囲の空気を確実に変えた。
「これは、抑え込まれ続けた構造が、
限界を超えただけです」
視線の先には、原初記録層に浮かぶ
無数の断絶と再接続の痕跡。
霧亜
「争いではありません」
一拍置いて、彼女は言い切る。
「改竄された世界が、
元の形を思い出そうとしている反動です」
その瞬間、
五界で同時に起きている破局が、
ひとつの線で繋がる。
教団は、狂信者ではない。
彼らは、救済を急ぎすぎた思想だ。
虚界は、災厄ではない。
それは、排除された可能性の集合体だ。
そして五界戦争は、
侵略でも復讐でもない。
管理された平和が、もはや維持できなくなった結果。
敵は、どこにも単独では存在しない。
誰かを倒せば終わる話ではない。
思想を潰せば解決する問題でもない。
問いに晒されているのは、
世界の構造そのものだった。
霧亜は、最後に残されたデータ群へと意識を向ける。
原初記録層の最奥。
これまで、誰も解読できなかった領域。
そこに浮かび上がった識別子を見て、
彼女はわずかに息を詰めた。
――境界神・設計ログ。
管理機構自身の、思考の痕跡。
霧亜
「……そうか」
そこに記されていたのは、
冷酷な支配者の計画ではなかった。
世界を救うために、
最善を尽くそうとした痕跡。
選択肢を減らせば、争いは止まる。
再統合を封じれば、世界は壊れない。
――そう信じた、論理の積み重ね。
境界神もまた、
「最善だと信じて、間違えた存在」だった。
完全な悪ではない。
だが、完全な正義でもない。
霧亜は、静かにデータを閉じる。
世界は今、
その“設計”を受け継ぐか、
それとも――越えるかの岐路に立っている。
そして、その選択に最も近い場所にいるのは、
すでに戦線を離れつつある、一人の少女。
次章へと続く問いが、
はっきりと形を持つ。
――美香は、受け継ぐのか。
それとも、設計そのものを超えるのか。
世界は、まだ答えを持っていない。




