適性検査と健太郎の“危険数値
カムイ支部・地下二階。
訓練フロアの一角に並ぶ測定室は、朝から異様な緊張に包まれていた。
新任隊長・夜宮レイジの一声により、支部員全員に“魔力量と共鳴値の再測定”が命じられたのだ。
普段なら半年に一度の検査が、突然の全員対象。
支部員たちはざわつきながらも、逆らえずに列を作っている。
「次、高槻健太郎」
霧亜に名前を呼ばれ、健太郎は測定室に入った。
部屋の中央には、結晶パネルを持つ大型の魔力測定器──
“クリスタル・オシレーターⅡ型”が据えられている。
美香が外から緊張した顔で手を振ってきた。
健太郎は軽く頷き、測定台に手を置いた。
「通常模式で測るわよ。力抜いて」
霧亜が設定を操作し、測定器が低い振動を発した。
次の瞬間──
「……ッ!」
結晶パネルの表面に、細いひびが一本、白い稲妻のように走った。
「えっ……割れた?」
美香の声が外から漏れた。
霧亜の手が、測定器の上で止まる。
「ま、待って。いまの……通常の学生では絶対に出ない値……」
測定器が警告音を発し、立て続けに数値をモニターへ表示した。
魔力飽和度:基準値の 4.3 倍
境界共鳴値:観測対象外領域
界縁干渉パターン:未分類
健太郎は目を瞬かせた。
「え、俺、そんなにまずいの……?」
ひびの入った結晶パネルを見つめる霧亜の表情は、明らかに動揺している。
そして、測定室の壁にもたれるようにして立っていた夜宮レイジが、ついに口を開いた。
「……なるほど。これが“君”か」
抑揚はない。だが、その一言に測量室の空気が凍りつく。
健太郎は振り返る。
「よ、夜宮隊長……あの、何か……?」
夜宮は答えなかった。
ただ一歩近づき、パネルに残るひびと、表示された数値を確認すると、端末にデータを転送する。
その端末の画面が一瞬だけ、霧亜の視界に映った。
黒塗りされた文章が並ぶ、本部の“特務科内部文書”。
通常の支部員では閲覧できない、極秘区分の資料。
霧亜は思わず息を呑む。
「隊長……今の数値、本部に報告を?」
夜宮は答えず、端末を閉じた。
「報告の仕方は、私が判断する。
……これは私の管轄だ」
淡々とした声音。
しかしその裏に、警戒と興味が強く揺れていることは隠せなかった。
健太郎は、状況が理解できず、ただ困惑していた。
美香は外で拳を握りしめている。
霧亜は、嫌な胸騒ぎを覚えていた。
──これが最初だった。
高槻健太郎という存在が、組織の“深層”に触れていく始まりとなる、決定的な瞬間。




