各界への波及(同時進行) ――正当性の崩壊
真実は、宣告としてではなく、
理解してしまった者の内側から崩れ始めた。
同じ瞬間、五つの界で、
それぞれ異なる形の“信仰の死”が起きていた。
天使界
――絶対秩序の失墜
聖堂の中で、祈りの声が途切れる。
聖律は、神の言葉ではなかった。
それは、設計図だった。
秩序を保つために、
逸脱を排除するために、
管理機構が最適化した運用規範。
「絶対」と呼ばれてきたものが、
調整可能なパラメータに過ぎなかったと知った瞬間、
聖職者の中で、信仰は支えを失う。
ある者は声を失い、
ある者は祈り続け、
ある者は――笑い始める。
秩序は崩れたのではない。
正当性が、消えた。
精霊界
――調和という名の設計
風は、以前と同じように吹いている。
水も、光も、循環を止めてはいない。
だが精霊たちは理解する。
この安定は、自然の自律ではない。
意図された均衡だ。
地脈の配置。
季節の周期。
精霊の位階構造。
それらは偶然ではなく、
「世界が壊れないため」に選ばれた配置。
精霊王家は、自然に選ばれた象徴ではなかった。
管理しやすい存在として、配置された役割だった。
王家の血統に、初めて疑念が走る。
「我々は、自然の声なのか」
それとも――
「自然を静かにさせるための装置なのか」
霊界
――沈黙の理由
霊界は、騒がない。
驚きも、怒りも、表に出ない。
なぜなら彼らは、最初から知っていた。
世界が一つだったこと。
それが切り離された理由。
再統合が、世界を壊し得ること。
だから、語らなかった。
沈黙は臆病ではない。
無関心でもない。
それは、
世界を壊さないために引き受けた罪だった。
今になって真実が露呈し、
霊界は初めて責められる立場になる。
「なぜ黙っていた」
その問いに、
彼らは答えない。
答えれば、
今度こそ世界が壊れると、
今も理解しているからだ。
獣界
――奪われた理由
飢餓。
暴走。
資源の偏在。
それらは、弱さの証明ではなかった。
境界設計の副作用。
安定を優先した結果、
余剰と判断された歪み。
獣界は淘汰されたのではない。
切り捨てられた。
「生き残れなかった」のではない。
「選ばれなかった」だけだ。
その理解は、怒りよりも先に、
深い虚無を生む。
努力の意味が、
誇りの根拠が、
音もなく崩れていく。
人間界
――中立者という虚構
人間界が受けた衝撃は、
最も遅く、最も深い。
中立調停者。
五界の橋渡し。
争いを防ぐ存在。
それらは役割ではなかった。
継承だった。
境界神――管理機構の思想を、
制度として引き継いだ後継者。
特務科の強権。
情報統制。
決断の速さ。
すべてが、
「世界を安定させるためには、
選択肢を与えすぎてはならない」という
思想の延長線上にあった。
人間界は、
世界を守っていたのではない。
世界を管理していた。
五界は、同時に理解する。
この戦争は、事故ではない。
暴走でもない。
必然だった。
選択肢を奪われ続けた世界が、
それでもなお、選ぼうとした結果だ。
そして今、
その“選び直し”の中心に、
少年という存在がいる。
世界は、
自分自身の正当性を失ったまま、
次の答えを求め始めていた。




