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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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78/111

歴史・記憶・概念の改竄 ――再統合思想の抹消

原初記録層は、まだ終わっていなかった。


霧亜が境界神――いや、管理機構の構造を理解した瞬間、

空間はさらに深い位相へと沈み込む。


ここから先は、出来事ではない。

意図の領域だった。


境界神の最優先目的が、霧亜の認識に直接流れ込んでくる。


――再統合を望む意思そのものを、

世界から消去する。


霧亜は、思わず歯を食いしばった。


争いを止めるのではない。

破壊を防ぐのでもない。


「戻りたい」と思うこと自体を、起こらせない。


それが、管理機構の出した結論だった。


最初に手を入れられたのは、歴史だった。


統合時代の記録は、削除されていない。

それは、あまりにも露骨すぎる。


代わりに行われたのは、断片化と神話化。


英雄譚に分解され、寓話に歪められ、象徴へと抽象化される。

事実は残るが、再構築できない形にされていた。


「かつて世界は一つだった」


その文言は、どの界にも存在する。

だが必ず、こう続く。


――それは神話である。

――比喩である。

――象徴的表現に過ぎない。


真実は否定されない。

理解できない形にされる。


次に干渉されたのは、記憶。


個人の記憶ではない。

文明単位でもない。


集合的無意識。


夢。

直感。

既視感。

理由のない郷愁。


それらの層に存在した「統合への指向性」が、

徹底的に書き換えられている。


霧亜は、自分の中にかすかな違和感を覚える。


——なぜ、私は今まで疑わなかった?


五界が分かれている理由を。

分かれていることの必然性を。


答えは、残酷なほど単純だった。


疑う発想そのものが、芽吹く前に潰されていた。


最後に改竄されたのが、概念。


これは、最も深く、最も不可逆な操作だった。


「世界は、ひとつに戻れる」


その可能性自体が、

危険思想として定義されている。


再統合を語る言葉は、必ず否定的文脈でのみ現れる。


――暴走。

――破滅。

――禁忌。

――神への反逆。


教育はそれを教え、信仰はそれを戒め、

自然法則ですら、それを拒むよう調整されている。


統合を試みれば、災厄が起こる。

干渉すれば、境界が不安定化する。


世界そのものが、

「戻ろうとするな」と警告する構造になっていた。


霧亜は、ゆっくりと理解する。


五界が平和だった理由。

大規模な再統合戦争が起きなかった理由。


それは、成熟していたからではない。

理解し合っていたからでもない。


争うための選択肢が、存在しなかった。


平和とは、

自由意志の上に築かれた状態ではない。


それは、

選択肢を消し去った結果、争えなくなった状態だった。


霧亜は、原初記録層の中で静かに目を閉じる。


五界戦争は、異常ではない。

異常だったのは、これまでの沈黙だ。


そして今、

再統合という“抹消された思想”が、

少年という存在を通して、再び世界に浮上しようとしている。


世界は、

それを受け入れる準備など、

一切していなかった。

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