章の締め ――禁忌は、救済だった
反転祭壇の静寂が、
ゆっくりと質を変えていく。
音ではない。
光でもない。
共鳴だった。
少年の胸の奥で刻まれる鼓動が、
祭壇全体へと滲み出し、
空間そのものを震わせていく。
彼は、もう理解していた。
レゾナンス教団は、
世界を壊そうとしているわけではない。
だが、
世界を守ろうとしているわけでもない。
彼らが耳を傾けているのは、
五界の秩序ではなく、
選ばれなかった世界の声だった。
救われなかった未来。
否定され、切り捨てられ、
「存在しなかったことにされた可能性」。
教団は、それらの代弁者に過ぎない。
少年は、ゆっくりと息を吐く。
正義でも、悪でもない。
それは、
世界が自分自身に突きつけた問いの形。
反転祭壇が、
明確に応え始める。
床と天井の境界が曖昧になり、
距離と方向の意味が溶けていく。
少年の鼓動と完全に同期し、
虚界が“こちら側”へ近づいてくる。
恐怖は、ない。
あるのは、
取り返しのつかない予感と、
逃げられない確信だけだった。
世界は、
彼を通して――
もう一度、
自分を選び直そうとしている。
それが、救済か。
それとも、破滅か。
答えは、まだない。
だが一つだけ、
少年には分かっていた。
この禁忌は、
誰かを裁くために生まれたのではない。
世界が、自らを否定し続けないための――
最後の、救済だった。




