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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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72/111

第六界ヴォイドの開示 ――禁忌の歴史

説明はなかった。

映像も、文字も、解説も存在しない。


少年が気づいたとき、

反転祭壇の空間そのものが、静かに変質していた。


床だったはずの面が溶け、

天井だったはずの概念が剥がれ落ちる。

上下の区別が消え、距離の意味が崩れ、

少年は「立っている」のか「浮かんでいる」のかすら分からなくなる。


次の瞬間、

世界が――生まれ直した。


そこは、五界に分かれる以前の原初世界だった。


境界は存在しない。

天使と魔が同じ空を飛び、

精霊の地脈の上を人間の都市が広がり、

獣の王が霊的法則を踏み越えて咆哮する。


隔たりがないことは、

調和を意味しなかった。


技術は、魔法を侵食する。

信仰は、理論を否定する。

概念は、概念同士で殺し合う。


善意で始まった干渉が、

やがて制御不能な衝突へと変わる。


文明が進むほど、

世界そのものが軋み始めた。


空間に亀裂が走り、

時間が歪み、

存在できないはずのものが、

存在してしまう。


世界が――耐えられなくなっていた。


その中で、

一つの「在り方」が、ゆっくりと浮かび上がる。


それは人ではない。

神とも、王とも、定義できない。


ただ、意志だった。


世界を見下ろすのではなく、

世界の底へと沈み込み、

痛みと破壊を、すべて自分の内側で受け止める存在。


――統合の王。


声はない。

だが、思考がそのまま意味として伝わってくる。


「壊さずに救う方法は、

ひとつしかなかった」


その瞬間、

世界の外縁が、裏返る。


戦争。

憎悪。

否定。

排除。

失敗した未来。

選ばれなかった可能性。


それらが、

一斉に“押し出される”。


外部に。

世界の外側へ。


そうして生まれたのが、

虚界ヴォイドだった。


それは、隔離ではない。

切り捨てでもない。


世界が壊れないために、

壊れ得るすべてを引き受ける場所。


負の感情も、

矛盾した概念も、

成立しなかった生命も、

すべてを拒まず、沈殿させる。


その時点では、

虚界は完全な救済装置だった。


世界は安定し、

衝突は吸収され、

破滅は遠ざけられた。


だが少年は、

その光景の奥に、

微かな違和感を見る。


虚界に押し出されたものたちが、

消えてはいないことを。


否定されながらも、

存在し続けていることを。


――世界に戻ろうとしていることを。


その感覚が、

胸の奥で疼いた瞬間。


少年は理解する。


これは、

他人事の歴史ではない。


自分の中に眠る何かが、

この禁忌の延長線上にあることを。


虚界ヴォイドは、

最初から呪いではなかった。


だが同時に、

永遠に封じられることも、

決してできない存在だったのだと。

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