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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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少年、誘拐 ――鍵が奪われる

北東支部は、生き延びてはいた。

だが、それだけだった。


復旧途中の施設には、至るところに継ぎはぎの痕が残っている。

仮設結界。限定再起動された監視系。

指揮系統は未だ完全には繋がらず、人員配置も歪なまま。


――最適だ。


教団にとって、これ以上ない侵入口だった。


少年は、簡易隔離区画にいた。

保護という名目で設けられたその空間は、今となっては檻に近い。


空気が、わずかに歪む。


音もなく、気配もなく、

それは“現れた”のではなく、“すでにそこにいた”かのようだった。


上位司祭。

名も顔も、意味を持たない存在。


位相、認識、因果。

三つを同時にずらすことで、直接戦闘という概念そのものを回避する者。


目的は一つだけだった。


少年の確保。


異変を最初に察知したのは、美香だった。


「……来てる……!」


反射的に前に出る。

結晶化が進んだ身体が悲鳴を上げるのも構わず、魔力を解放した。


空間が裂ける。

暴走に近い出力が、司祭の存在を一瞬だけ押し返す。


だが――


限界を越えた代償は、即座に現れた。


皮膚の下で光が走り、結晶が露出する。

美香は、膝をつき、そのまま崩れ落ちた。


「……ごめん……」


それが、彼女の最後の戦闘だった。


健太郎は、走った。


少年を視界に捉え、距離を詰める。

特務科で叩き込まれた制御を総動員し、界縁を開く。


だが――


虚界反応が過剰だった。


空間の奥行きが狂う。

上下も前後も、確かな意味を失う。


少年が、遠ざかる。


いや、遠ざかっているのは自分の方だ。


健太郎の指が、空を掴む。


決定的な一瞬。


追いつけなかった。


その時、声が響いた。

どこからともなく、だが確実に。


上位司祭の声。


「――“境界反転の器”」


静かで、断定的な響き。


「その子が来れば、

 五界はひとつに戻る」


それが救済なのか、破壊なのか。

この瞬間には、まだ誰にも判断できなかった。


少年は、振り返らなかった。


虚界由来の転移が発動し、

存在そのものが、現実から滑り落ちる。


完全な消失。


健太郎は、その場に立ち尽くした。


「……俺は……」


喉の奥で、言葉が詰まる。


「俺は、選ばなかった……」


選択しなかった。

守ると決めきれなかった。

世界と少年を天秤にかけ、何も掴めなかった。


だから――奪われた。


世界は、すでに燃えている。


五界戦争は全面化し、

虚界残滓は活性化を続け、

美香は倒れ、

霧亜は限界稼働、

夜宮は重傷のまま判断を下せない。


そして、少年は――

教団の手中にある。


世界を救う“鍵”は、

世界を壊す側へと渡った。


こうして、第二部は終わる。


残されたのは、ひとつの問いだけだった。


――救済とは、

いったい何を壊すことなのか。

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