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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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“失われた界”の正体 ――削除された歴史

封印庫の最奥に残されていた資料は、いずれも閲覧そのものが禁忌とされたものだった。

ページをめくるごとに、空気が重くなる。

いや――空間が“意味”を帯び始めている。


霧亜は、虚界ヴォイドに関する記述を一つずつ読み解いていった。


そこに書かれていたのは、世界の外側の話ではない。

世界が切り捨てた内側の話だった。


虚界ヴォイドの性質。


それは、五界の論理に属さない存在、思想、生命が行き着く場所。

正確に言えば、行き着かされる場所だ。


五界の歴史の中で、


存在条件を満たせなかったもの。

成立しなかった可能性。

記録から抹消された選択肢。


それらが、まとめて沈殿する領域。


「……“存在できなかった可能性”の集合……」


霧亜は低く呟いた。


虚界は、無ではない。

むしろ、過剰だった。


だが、通常の生命はそこでは形を保てない。

論理も時間も位相も、五界の枠組みを拒絶する。


虚界に触れた存在は、ほとんどの場合――

拡散し、溶け、意味を失う。


しかし、資料には例外が記されていた。


特定の適応者のみが、安定した形を得る。


その条件。


――リヴァース因子。

境界統合素体。


霧亜の視線が、無意識に少年のデータへと移る。


彼女は、解析端末を起動し、虚界残滓の波形と、少年の因子データを重ね合わせた。


結果は、疑いようがなかった。


五界由来のどの波形とも一致しない。

魔界でも、精界でも、霊界でもない。


虚界由来の残滓と、完全一致。


霧亜は、しばらく言葉を失った。


そして、ゆっくりと口を開く。


「彼は……“五界の産物”じゃない」


夜宮が黙って聞いている。


「正確には――

 六界が存在していた、その証拠です」


世界は、かつて六つあった。

だが五界は、その事実を選ばなかった。


次の資料に目を通したとき、霧亜の表情がさらに硬くなる。


そこには、短いが決定的な一文が記されていた。


虚界適応者は、単独では不安定。

反転位相を持つ“外側観測者”を必要とする。


霧亜の思考が、一気に収束する。


反転位相。

外側観測者。


――健太郎。


彼の界縁データは、虚界を破壊するためのものではない。

消去する力でも、封印する力でもない。


観測し、戻すための鍵。


霧亜は静かに結論を口にした。


「……構造が見えました」


夜宮が目を細める。


「少年は、虚界の“中身”です。

 切り離された界そのものの残滓」


一拍置いて、続ける。


「そして健太郎は――

 虚界の“出口”」


五界が削除した世界は、完全には消えていなかった。

ただ、戻る道を失っていただけだ。


少年と健太郎は、偶然出会ったのではない。

対位構造として、最初から用意されていた。


夜宮は、深く息を吐いた。


「……だから本部は、恐れた」


虚界を知れば、

五界が“正しかった”という前提が崩れる。


そして、もし――

失われた界を取り戻す術が存在するなら。


世界の均衡そのものが、書き換えられる。


静寂の中で、資料が低く唸るように共鳴した。


削除された歴史は、

いま、再び息をし始めていた。

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