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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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本部地下の封印 ――情報封鎖の正体

五界合同会議が崩壊してからというもの、人間界本部の空気は明らかに変質していた。


表向きは「秩序維持」「混乱収束」を掲げながら、内部では異様な速度で情報の整理が進められている。

否――整理ではない。削除だ。


霧亜は、日々更新される記録ログを追う中で、ある傾向に気づいていた。

レゾナンス教団に関する資料が、次々と分類を変えられている。


「未確認事案」

「事故由来の境界乱れ」

「他界的関連性なし」


いずれも、事実を否定する言葉ではない。

ただ、“繋がり”を断ち切るための言葉だった。


決定的だったのは、少年――リヴァース因子保持者に関する記録だ。


存在していたはずの個体識別番号、保護経緯、観測ログ。

それらが、まるで最初から存在しなかったかのように、完全に消えていた。


霧亜は背筋に冷たいものを感じた。


即興的な隠蔽ではない。

これは、熟練した運用だ。


改竄痕は最小限で、ログ整合性も完璧。

“消すための手順”が、長年にわたって磨かれてきた形跡がある。


――隠蔽は、今回が初めてではない。


その結論に至ったとき、夜宮もまた、同じ場所に辿り着いていた。


「……やはり、だな」


夜宮は、誰にともなくそう呟いた。


彼の脳裏に浮かんだのは、かつて噂話として耳にした言葉だった。

本部の地下に、存在しないはずの区画があるという話。


“裏回廊”。


公式記録には一切載らない。

現行の設計図にも存在しない。


だが――

本部創設期の古い図面には、不自然な「余白」が残されている。


建築上、何も配置されていないはずの空間。

そこにだけ、境界封印用構造体の基礎符号が描かれていた。


「偶然じゃない……」


夜宮は霧亜を見た。


「行くぞ。ここで止まれば、俺たちは一生“知らされない側”だ」


霧亜は一瞬だけ視線を伏せ、そして静かに頷いた。


二人は独断で、裏回廊への侵入を決断した。


裏回廊は、本部地下深層に口を開けていた。


だがそこは、通常の物理空間ではなかった。


一歩踏み入れた瞬間、霧亜は理解する。


半分は「記録」。

半分は「概念」。


壁面には、文字とも数式ともつかない情報が、層を成して浮遊している。

それらは保存されているのではなく、**“存在を固定されている”**ように見えた。


空間そのものが、記録媒体だった。


霧亜は解析を進め、やがて異質な波形を検知する。


「……この術式……」


人間界の魔術体系とは根本から異なる。

防御でも、研究でもない。


彼女の声は、わずかに震えていた。


「これは……防御でも研究でもない。

 存在を消すための構造です」


夜宮は歯を食いしばった。


封印庫の奥で、古い資料群が姿を現す。


最初の資料は、界構造の原初図だった。


そこに描かれていたのは、五つではない。


六つの領域。


「……五界は、後から再編されたものだ」


霧亜が息を呑む。


次の資料には、第六の界の名が記されていた。


――虚界ヴォイド


定義文は簡潔だった。


五界の外に存在するが、無ではない。

削除された概念、生命、記憶が沈殿する領域。


最後の資料は、その役割を示していた。


虚界の本来の機能は、「隔離」ではない。


緩衝。


五界同士の衝突。

文明の過剰進化。

存在の暴走。


それらを吸収し、世界を保つための安全弁だった。


だが、ある時代――


虚界は「危険すぎる」と判断され、切り離された。


夜宮は静かに言った。


「……世界は、自分で安全弁を壊したわけか」


その代償が、今、境界の軋みとなって現れている。


そして――

少年は、その“壊された界”の残滓だった。


真実は、すでに動き始めていた。

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