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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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美香の苦悩 ― 血統の呪い

戦術科の演習場に、乾いた破裂音が響いた。

美香の指先から放たれた魔力編成は、通常の人間では扱えない複合術式。

周囲の訓練生がざわつき、講師のひとりが叫んだ。


「……解析が追いつかない。再現可能なのか?」


美香自身は、なぜ成功したのかを説明できなかった。

胸の奥が熱く、呼吸が上下に乱れ、それでも術式は正確に、恐ろしく滑らかに流れていた。


直後、医療班が呼び出され、彼女は強制的に検査室へ連れて行かれた。


白い照明の下で、美香は診断結果を告げられた。


医療班員の男は、タブレットを握る手を硬くしながら言った。


「精霊族特有の“結晶化変質”が進行しています。

 あなたの身体は……その、耐性が人間基準なので、進行すれば——」


言葉が尻すぼみになった。代わりに、ホログラムが静かに浮かぶ。


皮膚の下に走る、細い透光性の筋。

感情が揺れると、魔力が皮膚表面から淡く漏れ出す。

微熱。倦怠。だが魔力操作精度だけが異常に――まるで他種族のもののように――上がっていた。


美香は、拳を握りしめた。


「……私、もう“人間の美香”じゃ、いられないのかな。」


その声を聞きつけた夜宮が、静かにカーテンを開けて入って来る。


「変質自体は抑えられる。」

夜宮は淡々と告げたが、その表情の裏に焦りが見えた。

「だが、本部が君を“資源”扱いする前に対処しなければならない。特務科は、こういう事例を放っておかない。」


美香は震える声で問う。


「もし……完全に変わってしまったら、私はどこに属すればいいの?」


夜宮は答えなかった。ただ、短く息を吐いた。


「私が守る。それだけは信じてくれ。」


数日後。

特務科訓練で疲労困憊の健太郎は、医療室横の休憩スペースに呼び出される。

美香は白衣を借りたまま腰掛け、目の周りがわずかに赤い。


健太郎は彼女を見るなり、胸に重いものが落ちた気がした。


「美香、大丈夫なのか?」


美香は作り笑いを浮かべた。


「ねぇ……私、変なんだ。魔力は前よりずっと扱えるのに、身体はどんどん変質していく。

 夜宮主任は止めると言ってくれてるけど……でも、いつか、私、誰だかわからなくなる気がする。」


健太郎は迷わず彼女の手を取った。

その手の甲に、淡い結晶の筋が見えた。触れると微かに光る。


「美香は美香だよ。何があっても。

 たとえ見た目が変わっても、魔力が変わっても、俺の知ってる美香のままだ。」


美香は首を振る。涙が落ちた。


「健太郎こそ……特務科に壊されるんじゃないの?

 今のあなた、訓練のたびに顔が変わっていく。目が……前より深いところを見てるみたいで。」


健太郎は言葉を詰まらせた。

確かに、特務科の訓練は身体だけでなく“人の形”を保つ精神さえ削るものだった。


「……どっちも、少しずつ人間じゃなくなってるのかな。」


ふたりはしばらく黙って座っていた。

やがて、美香が小さく呟く。


「なら、せめて……一緒に戻ろうよ。戻れるうちに。」


健太郎は返事をしようとして——できなかった。


そのとき、遠くで警報が鳴り響いた。

界振動の急上昇。

本部中枢に知らせが走る。


五界は、同時に軍備増強フェーズへ移行した。

人間界本部内部でも、特務科と戦術科の主導権をめぐる衝突が表面化しつつある。


夜宮は警報を聞きながら、通路の影で低く呟いた。


「戦争も、異変も、特務科の暴走も……全部同時に来る。

 子どもたちが巻き込まれる未来だけは避けたいのに。」


だが、避けられる気配はどこにもなかった。


第二章は静かに幕を閉じる。

健太郎と美香は、自身の“変質”と、迫り来る五界の戦火に押し流されていくままに。

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