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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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特務科訓練 ― “兵器化”のプロセス

夜宮が裏から連絡

夜宮

「無理するな。あいつらは“壊して再構築する”前提で見ている。」


健太郎はそこで初めて、

特務科が本気で自分を戦争用に改造しようとしていることを理解する。 小説化


以下、小説文として構築する。

訓練の異常性・非人道性・九条の観察者性・健太郎の精神変質を軸にした密度で描く。


■2-2 特務科訓練 ― “兵器化”のプロセス(小説化)


 特務科の訓練区画は、人間界本部のさらに地下──

 地理的にも、倫理的にも、地上から隔絶されていた。


 重い扉が閉まると、そこから先は“施設”という語が当てはまらなくなる。

 壁はゆっくりと位相振動し、直方体だったはずの部屋が五角形に、あるいは円筒に歪む。

 空気そのものが境界干渉を帯び、微かな耳鳴りが常時鳴っている。


「……空間が、揺れてる……?」


 健太郎の呟きに、護衛官は簡潔に応じた。


「この区画は訓練生の死亡が許容される。空間保全は必要最低限だ。」


 その言葉が冗談ではないことを、健太郎は数分後に理解することになる。


■訓練1:界操作訓練


 最初の訓練室は、薄青の境界霧で満ちていた。

 立っているだけで皮膚がひりつき、視界が時折乱れる。


「境界に触れろ。」


 九条シグレは、壁際の観測台に立ち、実験者のような声音で指示した。


「触れる……って、何を……」


「界だ。」

 九条の指が何もない空間を指し示す。

「そこにある。君には感じられる。」


 健太郎は息を整え、空間の“ゆらぎ”に意識を向ける。

 わずかに指先がしびれ、空気が水面のように歪んだ。


 ──掴める。

 そう思った瞬間、境界が“応じた”。


 空気が跳ね、光が走り、足元の床がきしむ。


「っ……!」


 強烈な精神負荷が脳髄に流れ込み、膝が折れそうになる。


 九条はすぐそばまで来て、無表情に記録装置を操作した。


「界縁接触成功。反応速度は平均の五倍。」


 数値を読み上げる声は、賞賛というより、資産価値の算定に近い。


「百万人に一人……いや、もっと低いな。

 この適応性なら、後天的な兵器化も可能だ。」


 九条は、健太郎の苦しみなど見えていないかのように淡々としていた。


■訓練2:位相反転の制御


 次の訓練は、攻撃魔術の“逆流”を再現する危険な実験だった。


「来るぞ。反転を合わせろ。」


 周囲から魔術弾が一斉に放たれ、空間が歪曲しながら迫る。

 健太郎は身の内の“もうひとつの層”を掴み、位相をひっくり返す。


 成功した。

 魔術がはじけて霧散し、九条が瞬時に計測する。


「反転成功。だが制御は粗い。」


 その言葉が終わるより早く、健太郎の視界がブラックアウトした。


 ──夢を見た。


 落ちるような暗闇。

 境界の底に溜まった静寂の中で、何かが健太郎を“観測”している。

 闇の奥に、巨大な「眼」。

 形容しがたい存在の意識が、健太郎の在り方を測るようにこちらを覗いていた。


 ──誰だ。


 声にならない問いは、夢の底で吸い込まれた。


 目を開けたとき、九条が見下ろしていた。


「反動で失神しただけだ。続ける。」


 健太郎は自分の手が震えていることに気づいた。

 だが九条にとってその震えは、訓練ログにすら記録されない。


■訓練3:境界干渉耐性の拡張


 金属台に固定され、上部から界波形が照射される。

 干渉波が皮膚を焼き、体内の魔力線を逆撫でするように脈打つ。


 隣のブースでは、別の訓練生が悲鳴を上げ、血を吐いた。

 訓練官は無言で停止ボタンを押し、訓練生を運び出す。


「……次。強度を上げろ。」


 九条の命令で、健太郎の照射量がさらに増す。


「がっ……!」


 骨がきしみ、視界が白く瞬く。

 だが限界を越えるほど、内部の界相が奇妙に“馴染む”感覚があった。


 耐えている自分を、九条が観察しているのが分かる。


「まだ行ける。限界はここではない。押し上げろ。」


 その言葉が、人への命令ではなく“素材”への指示であることが、痛いほど理解できた。


■訓練4:精神耐性強制メンタル・ハンマー


 最後の訓練室は、光も温度も存在しない“無”だった。

 そこに純粋な界圧だけが満たされ、精神の外郭が軋む。


「精神に直接流し込む。耐えろ。」


 九条の声が遠のく。

 世界が反転し、重力も方向も失われる。

 思考が削れ、記憶が霧散し、最後には自分の名前すら曖昧になった。


 ──俺は……誰だ。


 理性が崩落する寸前、外部から通信が割り込んだ。


《……健太郎、聞こえるか。俺だ、夜宮だ。》


 声だけが現実への錨となった。


《無理をするな。奴らは“壊して、再構築する”前提で見ている。

 お前の意思は、誰も守ってくれない。》


 その一言で、健太郎は辛うじて精神をつなぎとめた。


 訓練終了の合図が鳴る。

 崩れ落ちた健太郎を、九条は一瞥しただけだった。


「初日としては上出来だ。兵器化の進捗は許容範囲内。」


 “兵器化”。

 その語が、健太郎の胸のどこかでひどく冷たい音を立てた。


 理解した。

 ここでは自分は、守られる存在ではない。

 守るための力として扱われるでもない。


 ──ただの材料だ。


 その事実が、誰よりも強く、健太郎の心を変質させていった。

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