本部の異様な隠蔽
「最悪の状況だ。誰が味方で、誰が仕掛け人なのかすら分からない。」 小説化
以下は ■シーンG:本部の異様な隠蔽 の小説化です。
前シーンFからの流れを受けて、人間界本部の異常な“沈黙と処理”が政治的緊張をさらに高める構造にしています。
■シーンG:本部の異様な隠蔽
斥候隊からの緊急報告が届いたのは、魔界代表暗殺の混乱がようやく沈静化しかけた頃だった。
だが、その報告は本部戦略室の奥深くへ吸い込まれるようにして消えた。
数分後、返ってきた本部の通達は、あまりに簡潔だった。
『外周に残留していた魔力反応は“偶発的付着”と認定。
脅威情報としての価値なし。
当該データは封存し、対外発信を禁止する』
その場にいた作戦参謀・夜宮の表情がわずかに凍る。
「……偶然? あれほど明確な残響紋を?」
本部室内の空気は、報告書の文字よりも冷たかった。
スタッフの誰もが、その判断が“異常”であることに気付いていたが、誰一人声を上げない。
沈黙だけが、ひどく不自然に積もっていった。
■霧亜の推論
通信端末を閉じた霧亜は、深く息を吐きながら言った。
「——本部は、教団の存在を“今の段階では公開できない”と判断した。
理由は二つに限定される」
霧亜は指を二度、机に打つ。
「一つ。本部自身が教団の脅威レベルを正確に把握できておらず、場を混乱させたくない。
……これは建前だ」
続けて、さらに一段低い声。
「もう一つ。
本部と教団の間に、“何らかの通路”が存在する。」
夜宮の視線が鋭くなる。
「共犯関係の可能性、か」
「もしくは、一部の上層部だけが教団と接触している。
どちらにしても、情報隠蔽の速度と徹底ぶりが異常すぎる」
霧亜は残響紋の映像を指し示した。
「これを偶然と断じるのは、明確な政治的意思の表れよ。
“教団の存在が公になるタイミングは本部が決める”——
そういう態度」
■揺らぎ始める信頼
夜宮は腕を組み、低く呟いた。
「最悪の状況だ。
誰が味方で、誰が仕掛け人なのかすら分からない。
五界の緊張がこのレベルで……内部にまで敵がいるとなれば、会議は完全に瓦解する」
彼の視線は、アーカ・ドームの厚いガラス越しに広がる、人間界の“静かな都市”へ向けられる。
その静けさは、何か巨大なものが息を潜めている予感を帯びていた。
「本部の沈黙は、嵐の前触れだ。
——この会議そのものが、誰かの計画に組み込まれている可能性がある」
霧亜は黙ってうなずいた。
二人の沈黙は、敵の姿がますます見えなくなったことへの、純粋な恐怖だった。




