斥候隊による発見
午前4時前。
アーカ・ドーム外縁部はまだ夜の冷気に沈んでいた。
魔界宿舎区とドーム本体の間を、二名の斥候隊員が静かに進んでいく。
境界震度の乱れが続く中、外周の監視は通常の三倍に強化されていた。
「……止まれ」
先頭を歩いていた斥候の一人が、足元の舗装石に微かな光を見つけた。
霧のような揺らぎが、地表に薄膜のように貼りついている。
「魔力痕……? いや、違う。これ……波動残渣だ」
彼はしゃがみ込み、手甲の検知装置をかざした。
その瞬間、薄膜に埋め込まれた紋が淡く弾けるように浮上する。
幾何学的な螺旋、反転する双円、中心に刻まれた“無響”の符。
「……残響紋だ」
斥候の声は震えていた。
■残響紋──教団の“足跡”
それは通常の術者では絶対に残さない痕跡。
教団員が“波動相”に身体を同期させた際、周囲の界圧にごく薄く刻まれる“教団特有の魔波の歪み”だ。
見える者は限られる。
消えるまで24時間もない。
「本当にあったのか……ここに教団が入った証拠が」
もう一人の斥候が呟く。
「残響はまだ新しい。昨夜、魔界代表が殺された直後……いや、直前かもしれない」
緊張が一気に高まる。
■政治的決定の影
「すぐ本部に――」
言い終えるより早く、斥候の通信機に雑音が走った。
『……発見報告は、上層の判断で保留とする。
現場処理班は不要。区域警備を続行せよ。以上』
「保留……? ふざけるな」
斥候は通信機を握りしめた。
「どう見ても教団の印だ。隠蔽する理由なんてないだろう。
本部は……なぜ報告を握りつぶす?」
もう一人が、周囲を警戒しながら言った。
「本部が“知られたくない何か”を抱えている。
あるいは──教団の動きを知っていた可能性すら……」
言葉を終える前に、残響紋の光はすっと薄れていった。
まるで、夜空に散る霧のように。
そして、それを追う誰かの手が、確かにここまで来ていたことだけを示して。
■闇が境界線を覆い始める
斥候隊は互いに目を合わせた。
その沈黙には、一つの結論が宿っていた。
(ここに“第三勢力”がいる──)
魔界でも精霊界でもない。
人間界本部でもない。
残響紋は、五界の背後で糸を引く「レゾナンス教団」の存在を、最も冷酷な形で証明し始めていた。




