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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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52/111

事件発生──午前2時、宿舎区域

アーカ・ドームの宿舎区域は、深夜二時を過ぎても微かな魔力の脈動を抱え、静かに眠っていた。

 廊下には監視灯だけが点り、空調のかすかな唸りが響く。


 その静寂を破ったのは、短い金属音と、続く低い断末魔だった。


■密室の死


 魔界代表ヴァルト=ゼグナの部屋に駆けつけた時、すでに彼は倒れていた。

 寝台の傍ら、片膝をついた姿勢のまま、胸に深々と刃が刺さったまま。


 若き魔界代表の紫紺の瞳は、どこか不可解なものを見つめるように見開かれている。


 扉の鍵は内側から掛かっていた。

 窓は全て封印され、結界警報も作動していない。


 ――完全な密室。


「ば、バカな……侵入の痕跡は……どこにも……!」


 魔界側護衛官が蒼白になり、何度も結界層を確かめる。

 異常は無い。あるのは“結果”だけだった。


■検死と“ありえない残滓”


 急行した医療官の診断は迅速だった。


「殺害は一撃……心臓を貫通しています。即死です」


 だが、続く報告が場を凍らせる。


「傷口の魔力痕を解析しました。

 暗殺具は魔界式の呪銀刃ではありません。むしろ――」


 医療官は逡巡し、口を開いた。


「――“人間界の標準刃物”に近い痕跡です」


「何だと……?」

「魔界の代表を、ただの刃物で……?」


 ざわめきが走る。


 さらに追い打ちをかけるように、霧亜が壁面の異様な光を指差した。


「見てください。あの光……精霊文字の“残滓”です」


 壁には淡く揺らめく文字列が散っていた。

 しかし、霧亜はその瞬間、眉をひそめた。


「……これは、おかしい」


 精霊界代表が近づき、低く唸る。


「我々の言語……だが、古すぎる。

 千年前の“旧式コード”だ。現代の精霊族は使わない」


「つまり、偽装……?」

 美香が青ざめて呟く。


「はい。しかも杜撰です。

 精霊文字の構文規則が、三箇所……完全に間違っています」


 霧亜の声は震えていたが、確信を含んでいた。


「これは“精霊界による犯行”を示すための偽装です。

 しかも……犯人は最新の精霊文化を知らない」


■魔界の激昂、封鎖される宿舎


 報告が終わるや否や、魔界の護衛官たちは剣を抜き、怒鳴り声を上げた。


「精霊界……貴様らがやったのか!」

「代表を殺し、会議を潰すつもりだったのか!」


 精霊界側も黙ってはいない。


「根拠のない挑発はやめろ!

 この残滓は我々が作るには粗雑すぎる!」


 怒声が宿舎区に響く。


 人間界本部の警備隊が慌てて駆けつけ、魔力銃を構えた。


「宿舎区域を封鎖する!

 魔界・精霊界の代表団は全員、同区画に留まれ!」


「ふざけるな! これは宣戦布告と同義だ!」


 空気が一瞬で殺気に満ちた。

 外交団同士の魔力がぶつかり合い、廊下の照明が明滅する。


 霧亜は混乱の中、暗い戦慄を覚えた。


(……誰かが動いた。

 この暗殺は、五界合同会議を壊すための“最初の一手”だ)


 アーカ・ドームは、その夜から漂い始めた血の匂いを、夜明けまで消すことができなかった。

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