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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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51/111

議論は平行線

境界破壊事件に関する本議題が開かれたのは、開会式からわずか一時間後だった。

 アーカ・ドーム中央議場は、既に外面だけの平静を保つ薄氷の空間になっている。


「では――議題一。“境界破壊事件”の再調査について」


 議長ハーデンが宣言した瞬間、静寂が破れた。


■五分で崩壊する議論


「再調査? 必要ない。我らは精霊界の関与を証明する証拠を持っている!」


 魔界の老魔将ラズグロスが吼えるように立ち上がる。

 精霊界側が同時に声を重ねた。


「虚言だ。そもそも境界値の不自然な“同期”こそ、人間界の禁術の痕跡!」


「精霊界よ、責任を擦りつける気か!」


「魔界は常に自分たちだけが被害者だと言いたいのだ!」


 一斉に声が飛ぶ。議論開始から五分足らずで、互いの発言が遮り合い、議場は錯乱に近い様相を呈していた。


 空気が震える――精霊界から魔界へ向けて、目に見えぬ微弱な魔力干渉がが放たれた。

 魔界側も反射的にそれをいなし、冷たい殺気を返す。


 霊界は沈黙を貫きつつ、その背後で不可視の結界を張り巡らせている。

 獣界はいつでも吠えて飛びかかれるような殺気を隠しもせず、牙のように尖らせた視線で魔界を睨む。


 そして――人間界本部は、静かに“観察”していた。


(……これでは会議ではない。火薬庫の真ん中で、全員が火花を散らしている……)


 霧亜は歯を食いしばった。


■霧亜の“嗅覚”


 彼女は諜報分析官として、他界の外交官たちの“言葉の揺れ”を読み取ることに長けている。

 その霧亜の耳に、不可解なざらつきが混じって聞こえていた。


(……妙だ。

 どの代表も、焦りが強すぎる。

 まるで、“誰かに怯えている”ような……)


 単なる怒りではない――恐怖と焦燥が混じり合った不自然な熱量。

 議論は堂々巡りを続けながら、ゆっくりと“何者か”に誘導されている。


「境界同期の起点は魔界側の――」


「いや、人間界に疑う余地がある――!」


「霊界の沈黙こそ怪しい!」


 叫びは連鎖し、議場は沸騰していく。


 霧亜は小声で夜宮に囁いた。


「なにか、言葉の裏側に“誘導の匂い”があります。

 誰かが意図的に、五界を互いに刺し合わせようとしている……」


■夜宮の直観


 夜宮は、静かに周囲を見渡しながら答えた。

 彼の目は戦略家のそれに変わっている。


「……攻撃した者は、五界が互いに疑い合うことを計算している。

 この会議そのものが罠かもしれない」


 その言葉は、霧亜の心に重く沈む。


 魔力の衝突、結界の干渉、隠された盗聴と監視――

 会議場の裏側ではすでに、情報戦・探知戦・心理戦が複層的に展開されていた。


 もはや外交ではなく、“初手を誰が撃つか”だけの状況。


(これでは……何か一つでも事件が起これば、五界戦争が始まる……)


 霧亜の不安は、現実になるのにさほど時間は掛からない。


 このとき、暗殺者はすでに“動き始めていた”。

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