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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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50/111

開会式──既に冷戦状態

アーカ・ドーム中央議場。

 半円形に据えられた各界の座席は、形式上は“平等”を示すはずだった。

 だが今、そこに漂う空気は平等とは程遠い。

静寂という名の冷戦が、その場を覆っていた。


 議長席の水晶鐘が鳴り、開会を告げる光が天蓋を走る。


 最初に強い気配を放ったのは、魔界代表団だった。


■魔界代表団


 黒紫の外套を翻し、若き代表ヴァルト=ゼグナが歩み出る。

 銀の瞳。若いが、その背後に立つ重鎮たち――老獪な魔将ラズグロスらが、あからさまに精霊界へと睨みを飛ばしていた。


「我らが境界は、裂け目から“群獣化”した魔物の流入を受けている。

 これは自然災害ではない。何者かの攻撃によるものだ」


 言葉は冷徹で、抑えた怒りを含む。

 魔将たちは声を発さずとも“精霊界を疑っている”と全身で語っていた。


 精霊界側の空気が揺らぐ。


■精霊界代表団


 透明質の鎧に青い光を宿す高位精霊たち。

 代表エリューシアは一歩も引かない気配で応じた。


「魔界よ、根拠なき敵視は愚行です。

 むしろ、最近の境界値乱れこそ――人間界が禁術を用いた可能性が最も高い」


 議場に緊張が走る。

 精霊たちの背後の空気が淡く波打つ。怒りの兆候だ。


 霧亜は席からそのゆらぎを見て、分析を進めていた。


(彼らは怒っている。しかし“怒りが本質ではない”。

 追い詰められた焦り、それが怒りに偽装されている)


 


■霊界代表団


 対して、霊界は一貫して無言だった。

 薄衣のように揺れる外套をまとい、存在感すら希薄な使者たち。視線すら読ませない。


 議場の者たちが焦れ始めたころ、霧亜は小声で夜宮に言う。


「……彼らは“沈黙を武器”にしています。

 何も言わないことで、全界に疑念だけを植え付ける。

 霊界は、立場を曖昧にして最大の交渉力を得ようとしている」


 夜宮は短くうなずいた。


「中立を標榜する者ほど、危険というわけだな」


■獣界代表団


 次に言葉を発したのは獣界の外務官、ラルガだった。

 筋骨の浮いた腕を卓に置き、低く唸るような声で魔界を指差す。


「魔界領での“群獣暴走災害”について説明しろ。

 獣界は甚大な被害を受けた。お前たちの境界乱れが発端ではないのか?」


 ラルガの怒声は凄烈だったが、内心は別だ。

 彼自身も、獣界が引き金を引いたという確証を持たない。

 不安が怒りを刺激し、議場全体を荒らしてゆく。


■人間界本部(議長団)


 最後に視線が向いたのは、人間界本部の議長団。

 宗主ハーデンは、灰銀の法衣をたたみながら席に座り、重々しく口を開く。


「……すべて、調査中です」


 それだけ。

 五界の代表たちから、一斉に嘲りと怒りが飛ぶ。


「貴殿らの領域で起きた境界破壊だぞ!」


「“調査中”で済む話ではない!」


「本部は何を隠している!?」


 だがハーデンは、微動だにしなかった。

彼の背後――議長席の影には、すでに密かに動く黒服の戦術部隊が控えていた。

人間界本部は、決して中立ではない。


 霧亜はその影を見逃さなかった。


(……本部は、何かを“掴んでいる”。

 そしてそれを、絶対に開示するつもりがない)


 議場全体が、張り裂けそうな緊張に包まれる。


 形式としては会議の開会式。

 しかし実態は、五界が互いに銃口を突きつけ合う紛争前夜そのものだった。

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