小規模戦闘 — 二人の連携戦闘の初披露
河川敷に夜風が流れ、背丈の低い草がざわりと揺れた。魔力光を含んだ風は淡く青い燐光をまとい、その中を、小さな影がいくつも弾丸のように走り抜ける。
散開した妖精族――フェアレットたちだ。虹膜の発光が加速し、警戒と敵意が露わになる。
「来るよ、健太郎くん」
「分かってる」
会話は短い。呼吸の一致は、もはや癖に近い。
一体が先陣を切った。羽ばたきが音の壁を破り、鋭い“針”が空気を裂く。
健太郎は一歩踏み込み、上半身をしならせる。針が頬をかすめ、火花のような魔力飛沫が散る。しかし彼の皮膚には、赤い線すら残らなかった。
(……やっぱり、普通じゃない耐性だよな)
その余裕を思考に割きながら、健太郎は反撃に移る。
拳が、小さく呼吸する。訓練場で叩き込まれた動作――
「衝断」
名を呼ぶより早く、圧縮された衝撃が解き放たれる。拳が触れる直前、空気の層を割り、妖精の小さな体を弾き飛ばした。
フェアレットは小さな悲鳴を上げ、地面を転がる。
その背後で、美香が短杖を掲げる。銀糸のような魔力紋が足元に展開し、風が渦を巻いた。
「――風縛!」
透明な風の帯が巻き上がり、三体のフェアレットを一斉に絡め取る。暴れるほど絡みつき、動きを奪う拘束術。
美香は表情をほとんど動かさない。精密な制御のため、視線だけで風の流れを誘導していく。
「ナイス」
「そっちもね。前衛の仕事、完璧だよ」
互いに言い切るより前に、新たな影が頭上から急降下してきた。リーダー格の個体だ。羽の光度が強く、体表の紋が濃い。
「健太郎くん、気をつけて。あれ、少し強い」
「分かった。こいつで終わりだ」
リーダー格のフェアレットが、束ねた針を放つ。光の筋が扇状に広がり、避け場を奪う。
健太郎は地面を蹴り、前へ。回避ではなく、踏み込み。針の大半を腕で払う。払われた針は魔力を散らして砕け、煙のように消えた。
そのまま距離を詰め――
「っし!」
短く息を吐き、肩の回転を乗せて拳を放つ。
直撃を受けたフェアレットが地面に叩きつけられ、羽を震わせながら動かなくなった。
戦いの流れが完全に二人へ傾く。
美香は拘束魔術を強め、逃げ場を与えずに次々と捕縛していく。
――ただ、一体だけ。
捕縛の隙間をすり抜け、上空へ逃げ上がる影があった。
「逃がす……!」
健太郎が跳ぼうとした瞬間、
弓弦の音が夜を裂いた。
細い矢が一直線に飛び、妖精の進路を“寸分の狂いなく”塞ぐ。
フェアレットは急停止し、恐怖で震えたまま墜落する。針一本傷つけることなく、退路だけを断つ精密な射撃。
「ふたりとも、お疲れ。後処理はこっちで引き取る」
草むらの影から現れたのは、カムイ支部所属のガーディアン――椿霧亜。
長い黒髪を指先で払いつつ、静かに弓を下ろす。
その歩みに合わせ、夜風が揺れた。
河川敷に残った魔力光は消え、ただ戦闘の余韻だけが漂っていた。




