第一部終幕 ― 夜明け前の誓い
五界同時侵入という未曾有の夜が、ようやく終わりを告げようとしていた。
崩れた街路には霧のような残滓が漂い、空にはまだ、裂け目の細片が淡く瞬いている。
それでも、異界の気配は遠ざかりつつあり、市街は嘘のように静まり返っていた。
廃神社の境内――戦場と避難所が混ざり合ったその空間に、寒気を帯びた夜風が流れ込む。
■ 少年の震え、健太郎の手
少年は、健太郎の袖を小さな手で掴んでいた。
その声は微かで、だが確かに震えている。
「ぼく……すごく、怖かった……。
でも……健太郎が……呼んでくれた。
あの光の中で、ずっと……聞こえてたんだ。」
健太郎は言葉を返せず、ただその手を包み込む。
自分自身、何をしたのか理解しきれないまま――それでも迷いのない表情だった。
■ 美香の誓い
美香がそっと二人に歩み寄る。
髪に残った結晶片が夜明け前の光に反射して淡く輝く。
「三人でここまで来たんだよ。
私たちは……チームなんだ。
誰も置いて行かないし、誰も置いていかせない。」
その声には、先ほどまでの恐怖も迷いもない。
彼女自身の魔力に眠る精霊族の“古い言語”は今も微かに揺らぎ続けているが、
それでも、その眼差しは揺らがなかった。
■ 霧亜の決意
霧亜は荒れた境内を見渡し、深く息を吐く。
「……私も、覚悟を決めた。
あれだけの異界波形が重なったのに、私たちはまだ生きている。
きっと理由があるんだろうね。」
霧亜の瞳には、かつて抱いていた本部への信頼の色はもうない。
「生きる目的が変わったよ。
“外側”の真相を、私たち自身の手で暴く。
これはもう、誰かの命令で動く仕事じゃない。」
■ 夜宮の宣告
夜宮レイジは、四人の姿を静かに見つめていた。
その表情には支部長としての厳しさと、導く者としての決意が同居している。
「ここから先は……戦いだけでは済まない。」
「これは“選択”の話になる。
君たちに求められるのは、境界の真実を知り、それでもなお歩む覚悟だ。」
夜宮は問いかけるように一人ひとりの顔を見た。
健太郎が最後に見つめられた。
「健太郎。君の力は危険だ。君自身にも、世界にも。
それでも進むつもりがあるか?」
少年が不安げに健太郎を見上げ、美香が祈るように指を組む。
霧亜はただ静かに、彼の決断を待っていた。
■ 健太郎の答え
健太郎は短く息を吸い込み、夜宮へと向き直る。
「……俺は逃げません。
この力がどこから来たのか、何を意味するのか……わからないことだらけですけど。」
拳を握りしめ、はっきりと言った。
「それでも、“守るため”に使う。
俺はそのためにここに立ってる。
どんな外側が待っていようと……逃げません。」
その言葉に、少年の肩が震え、美香が微笑み、霧亜は静かに頷いた。
■ 夜明け前の誓い
廃神社の境内に四人が集まり、
まだ夜の名残を抱えた空へと視線を向けた。
霧の向こうで、東の空がわずかに白む。
夜宮が一歩前へ出る。
「――北東支部は“五界再編の中心点”となる。
君たちの選択が、この世界の形を決めるだろう。」
四人は向き合い、互いの手を取るわけでも、誇張した儀式をするわけでもなく――
ただ静かに、共に立つという事実を誓った。
その瞬間、遠くで一筋の光が夜を溶かし始める。
夜明け前の誓いは、確かにそこに刻まれた。
こうして第一部は幕を閉じ、
物語は第二部――“外側の真実”へと歩みを進める。




