少年の正体 ― 「境界統合素体(リヴァース因子)」
五界からの侵入によって支部が揺さぶられる中、
その喧騒を切り裂くように、少年が突然その場に膝をついた。
「……っあ……あつ……い……!」
少年の細い指が床を掴み、爪が軋む。
美香が駆け寄る。
「ちょ、ちょっと大丈夫!? どうしたの――」
「だめ、美香、触るな!」
霧亜が素早く腕を伸ばし、少年の周囲に展開する熱波状の魔力を感知して制止する。
少年の体温が、周囲の空気を震わせるほど上昇していた。
光が皮膚から漏れ、まるで内部から別の世界が滲み出しているようだった。
「全部……流れ込んでくる……!
音も、光も、……境界の向こうから……!」
少年の声は、自分のものではないように震えていた。
■ 眠っていた“因子”の覚醒
その瞬間、監視網に浮かぶ五界の波形が、狂ったように少年へ向けて収束し始めた。
「……これは……?」
霧亜の表情が凍る。
観測モニターが示すのは、五界の根源位相――それぞれが異なる存在原理で構成された波形が、
まるで一点へ吸い込まれるように同調し、“一本の線”へと束ねられていく現象だった。
「五界の根源位相が……統合されている?」
夜宮が息を呑む。
そんなことは有り得ない。
五つの界は互いに排他構造であり、どれか一つが強まれば別が破綻する。
本来、絶対に混ざらないはずの“根”が――少年の内部で一つになろうとしていた。
「彼の中で眠っていた情報が活性化……いえ、これは――」
霧亜は震える声で告げた。
「彼は……境界の“反転点”そのもの……
五界を束ねるため、古代文明が作り上げた“境界統合素体”……!」
言葉が空気を切り裂く。
人間ではない。
ただの異界人でもない。
“界縁統合”のために造られた、人工的な“要”――
レゾナンス教団が血眼で探す、再編の鍵。
■ 健太郎の脳裏に走る“外側”の映像
少年の覚醒と同時に、健太郎の視界も突然ノイズに染まった。
「う……っ!?」
頭蓋の奥が焼けるように痛む。
その痛みの間から、見覚えのない映像が次々に流れ込んでくる。
――空間の外側に広がる、星も光も存在しない虚空。
――そこに記述される“数式の奔流”。
――五つの界を貫き、門を渡る光の管。
――そして、その中心で揺れる“二つの位相”。
意味は分からない。
だが、確かな実感だけが残る。
この映像は、少年のものではない。
健太郎自身の奥底に眠っていた“別の記憶”だ。
「くそ……なんだこれ……」
健太郎はこみ上げる吐き気を抑え込む。
■ 二人は“対”
霧亜が少年と健太郎を見比べ、ゆっくりと気づく。
「……まさか。
二人は、同じ位相の……対になっている?」
少年の因子が暴走すれば、健太郎の内部で眠る“もう一つのデータ”が反応し、
それを補正しようと動き出す――
いわば、
片方が振れれば、もう片方が“均衡”を取り戻すように組まれた、
古代の双子構造。
その意味は、まだ誰にも理解できない。
だが――
二人が揃ったとき、五界の鼓動は必ず“反転”する。
その事実だけが、境界の亀裂の中で静かに姿を現し始めていた。




