五界の“鼓動”が乱れ始める
第6章・S4 五界の“鼓動”が乱れ始める
小説化
北東支部の深部、境界観測室。
無数の立体波形モニターが、普段とはまったく異なる挙動を示していた。
「……これは、どういう……」
霧亜が思わず息を呑む。
通常、五つの界――幻界・精界・魔界・霊界・獣界――それぞれの境界値は、互いに異なる“鼓動”を持ち、独自に波形を刻む。
しかし今、その五つが――異常なほど揃っていた。
同調している。
あるべきではない形で。
「鼓動波形が……同期しています。」
相沢が震える声で報告する。
「本来、五界の基盤そのものが揺らがなければ起きない現象です。
これは……“誰か”が五界全体の根源境界を、意図的に撹乱している。」
モニターの中心に、同調した波形がひとつの巨大な脈動を描く。
それは、地球の心臓が異界に引きずられるような、不吉なリズムだった。
「五界同時異常……」
霧亜は小さく呟き、顔色を失う。
「こんな現象……記録にすらない。」
その瞬間。
「っ……!」
観測室の外、通路で健太郎が頭を押さえてうずくまった。
霧亜が駆け寄る。
「健太郎!? どうしたの?」
「……わからない。
頭の奥で、誰かが……何かが……響いてくる……」
健太郎は呼吸を乱し、額に汗をにじませる。
脳ではない別の場所――身体のどこか、もっと深いところが脈打つような痛み。
霧亜は驚愕する。
「五界鼓動……あなたに反応している?」
健太郎が苦しむ一方で、支部保護区画にいる“少年”は――
「ん……」
ベッドの上で、静かに目を閉じていた。
その顔は、むしろ“落ち着いて”いる。
担当員が驚いたように報告する。
「……少年の境界値は安定しています。
むしろ普段より規則的です。」
相沢がモニターを見つめながら、戦慄を隠さずに言う。
「五界鼓動の乱れ……
なぜか、少年は同調して安定。
健太郎さんは逆に苦痛として反応している。」
霧亜は視線を立体波形に戻し、静かに呟いた。
「――二人は、対になっている。」
相沢も頷く。
「はい。
少年は“リヴァース因子”……五界の鼓動を束ねる鍵。
そして健太郎さんのデータには……その“対になる波形”が眠っている可能性が高い。」
「では……五界を揺らしている“何者か”は……」
霧亜が言いかけた時、観測室の照明が瞬時に揺らいだ。
警告アラートが鳴る。
夜宮が室内に飛び込んできた。
「全員、待機。
五界境界値が限界突破寸前だ。」
その声の重さに、誰も言葉を返せなかった。
五界全体が、何者かに“叩かれている”。
そのリズムに反応するように――
健太郎の内側で眠る“何か”もまた、目覚め始めていた。




