北東支部の孤立化の兆し
深夜の北東支部。
通常なら落ち着いた明度で灯り続ける通信中枢のモニターが、今夜だけは異様な沈黙に沈んでいた。
夜宮は緊急通達を受けて、戦略分析室へ足を踏み入れる。
複数のオペレーターが端末を操作しながら、困惑と焦燥を隠しきれていない。
「……通信帯域が制限されました。」
分析班の相沢が報告する。
「本部への上位回線が、理由不明の“低優先度”に格下げされています。」
「低優先度だと?」
霧亜が声を強める。
「レゾナンスは今も市内で動いています。本部はその情報を即時共有しなければ――」
相沢は首を振る。
「それが……レゾナンス関連の情報そのものが、“封鎖対象”に分類されています。
本部側で、閲覧も送信も許可されない状態です。」
室内の空気が凍る。
「封鎖……?」
美香が息を呑む。
「レゾナンスって、五界の破壊を企む組織なんですよね? 本部がそんな……」
夜宮は端末の画面をにらみつけたまま、低く呟いた。
「……本部は動けないのか、動く気がないのか。判断がつかない。」
霧亜は思わず夜宮に詰め寄る。
「どうして、少年の情報まで沈黙なんですか?
あの子は“界縁由来存在”で、人類圏にいること自体が重大事のはずです。本部が動かない理由は……」
夜宮は霧亜の視線を受け止め、わずかに目を伏せた。
「少年だけではない。」
夜宮は続ける。
「リヴァース因子保持者に関するすべての情報も、本部内で“隔離処理”に移行されている。」
「隔離処理……?」
健太郎が小さく呟く。
「つまり……本部は俺たちに、この件を触らせたくないってことですか。」
「おそらく。」
夜宮の声は静かだが、芯がある。
「そして、北東支部は“方針から外れた支部”として扱われる可能性がある。」
美香が震える声で問う。
「切り捨て……られるってことですか……?」
夜宮は答えなかった。
だが沈黙自体が答えを示していた。
霧亜は拳を握りしめ、悔しげに言う。
「本部は……何を隠しているんですか?」
「わからない。」
夜宮は短く吐き捨てるように言った。
「だが――北東支部は、もはや外部と自由に連携できない。
我々は今、実質的に孤立した状態だ。」
室内の照明が、ひどく冷たく感じられた。
そしてその陰で、誰も知らぬまま、北東支部は
本部の“門外計画”から逸脱し始めていた。
切り捨て対象として、静かに。




