遭遇 — 妖精族密入界グループとの初接触
河川敷は昼下がりの光で白く照らされ、草の匂いが風に漂っていた。
だが、その一角だけ、色彩がわずかに歪んで見える場所があった。
そこに――“穴”がある。
空間に縦一文字、光の裂け目が走り、糸を引くように揺れている。
境界ゲート。完全に開き切る前の“未安定状態”だ。
「間に合った……でも、拡がりかけてるわね」
美香がスキャンを走らせ、眉根を寄せる。
ゲートの縁から吹き出る魔力風は、確かに強い。
健太郎が近づいた瞬間――チリリッと金属が擦れるような音がした。
裂け目が脈打ち、光が一度収束し、そして弾ける。
次の瞬間、小さな影が次々と飛び出した。
1体、2体……8体。
いずれも30センチほどの小さな humanoid。
透き通る薄翼が陽光に虹色を返し、身体は木の実のような柔色に輝く。
いわゆる妖精族――フェアレット。
しかし、可愛らしさに反して彼らは全員、細い光の針のような武器を帯びていた。
軽やかな声で叫びながら、地面に散開する。
「チッ、見張りいなかったはずだろ! なんでガキがいるんだよ!」
「こっち側の空気、ひっさびさ。鉄の匂い、うめぇ~!」
「おい、金属はどっちだ! 橋の下か? 車のほうか?」
高く、甲高い声。
いたずら好きな童話の妖精とは違う、“仕事”の声だった。
フェアレット族は元来、金属資源のない世界に住むため、精錬物への執着が強い。
違法業者に雇われて鉄や銅を盗掘するケースは後を絶たない。
健太郎が半歩前へ出ると、群れの一匹が指を突きつけてきた。
「おい、お前ら……人間のガキ? いや、その装備……ガーディアンか?」
美香がすっと前に出て、冷静に宣言する。
「カムイ支部・第18班。――不法入界は五界条約第六項違反。これ以上の侵入は許可できない。今すぐゲートから戻りなさい」
「はぁ? 誰が戻るかよ。こっちは仕事なんだわ」
「こっちも仕事よ」
美香の瞳に小さな光が宿り、淡い魔力が空気に滲む。
健太郎は周囲の地形と風向きを即座に計算し、武器の柄へ軽く触れた。
フェアレットたちは、にやつきながら光の針を構える。
「ガキ相手ならイージーだな。ちゃっちゃと倒して回収すっか」
「金属、金属……この街は金属の宝庫だぜぇ」
「へへっ、こっちの世界は稼げるんだよなぁ。裏の奴らも喜ぶしよ」
裏の奴ら――。
健太郎の耳が、わずかに反応した。
妖精界の密輸網。
ガーディアン本部が掴んでいる“教団”に繋がる噂はまだ断片的だが、この発言は後々意味を持つことになる。
美香が短く息を吸う。
「健太郎。来るわよ」
「あぁ、分かってる」
風が沈黙し――
フェアレットたちの翼が一斉に震えた。
光の針が、昼の河川敷に散るように構えられる。
小規模とはいえ、これが二人にとって今日最初の“異界戦闘”だった。




