少年が現れる(教団に追われて)
夜の山間地帯。
朽ちかけた鳥居と、苔の吸い付く石段――
地元ではすでに忘れ去られた廃神社が、冷えた闇の中に沈んでいた。
健太郎、霧亜、美香の三人は、
教団の痕跡を追って、この神社跡を調査していた。
美香が結界感知の装置を手にして呟く。
「……ここ、魔力が濃い。
まるで誰かが“逃げ込んだ”みたいな痕跡がある……。」
霧亜は刀の柄に指を添えたまま周囲を見渡す。
「気配が乱れている。まだ近くに――」
その瞬間だった。
茂みをかき分ける音。
否、駆け下りてくる足音。
それは焦燥と恐怖をまとった速さだった。
鳥居の影から、少年が飛び出してきた。
痩せた体。白く、透明めいた髪。
年齢は健太郎より少し下だろう。
荒い呼吸で胸を押さえ、瞳だけがぎらぎらと生きている。
「た……助け……て……
追われてる……!」
声はかすれていたが、切実だった。
美香が息を呑む。
「この子……界縁反応が、強い……!」
霧亜が即座に健太郎を庇う位置を取る。
「落ち着いて。誰に追われているの?」
少年は言葉にならない声で背後を振り返った。
そのとき――
空気がねじ切れるような振動が、廃神社を貫いた。
月の光を受けて木々の影が揺れ、
そこから複数の“黒い影”が歩み出てくる。
レゾナント。
境界粒子を無理やり注入された強化人間。
彼らは静かに、しかし確実に少年を見据えた。
そして、もう一人――健太郎にも。
霧亜が刀を抜き放つ。
「完全に狙われてる……!
散開して――」
言い終わる前だった。
レゾナントの一体が、健太郎を捉えた瞬間。
空気が、弾けた。
「……っ?」
健太郎の視界の端で、世界がわずかに歪む。
地面が遠く見え、木々の影が流動する。
界縁粒子――
彼自身も制御できない光が、健太郎の体表から立ちのぼっていた。
淡い光の粒子が風のように舞い、
周囲の空間だけが凪のように安定していく。
美香の結界が暴発寸前で膨らむ。
「だめ……!魔力が、制御でき……――」
霧亜が振り向く。
「美香、落ち着け!結界を絞れ――!」
しかし、美香の魔力は界縁粒子の影響を受け、暴れ出す。
結界の網が膨張し、廃神社の石柱に光のひびを広げる。
それでも、健太郎の周囲だけは――
まるで“嵐の中心”のように静かだった。
そして、異変はさらに起こる。
少年が、健太郎を見た瞬間。
その荒れ狂っていた界縁の波が、嘘のように沈静化した。
少年の瞳に驚愕が浮かぶ。
「……君……。
同じ……なの……?」
健太郎は息を呑む。
「同じ……?」
少年は震える手を伸ばす。
指先が、健太郎の界縁粒子の光へ触れようとした瞬間――
光が共鳴し合うように揺れた。
美香が息を呑む。
「これ……属性反応が……ゼロ?
二人とも……“無属性”のまま……融合してる……」
霧亜が顔をしかめる。
「界縁の“根源適性”……。
この子、そして健太郎君……
同じ因子を持っている……?」
レゾナントたちが二人の共鳴を“標的の確定”と見なし、動き始める。
夜の廃神社に、無音の殺意が満ちた。
健太郎と少年――
二人の“属性の無さ”が、破壊と創造の境界を揺らす共鳴の核となることを、
この場にいる誰もまだ知らなかった。




