教団の実働部隊が支部周辺に出現
神流市郊外。
薄曇りの午後、枯れ草の匂いに混じって、微かに焦げたような気配が漂っていた。
夜宮支部長、霧亜、美香の三名が現場に到着すると、
問題の区域はすでに警戒線で囲まれている。
しかし、ただの不法侵入現場とは明らかに空気が異なっていた。
地面には、黒く焼け焦げたような痕が円形に広がっている。
複数の円が重なり、交差し、螺旋めいている。
それは悪魔族の裂け目とはまったく異なる“作為の匂い”だった。
霧亜はしゃがみ込み、指先で黒い残滓をなぞる。
肌にざらりとした粒子が触れ、霧亜の表情が険しくなる。
「……悪魔族の式じゃない。
これは、人間の魔術式。しかも――」
夜宮が問いを促す前に、霧亜が言い切った。
「異界を呼び込む“共鳴式”です。
間違いありません……教団の式です。」
美香が思わず後ずさる。
「じゃあ……教団の人が、もう来てるってこと……?」
霧亜は静かに頷いた。
その目は、森の奥――まだ何も見えない闇の方を警戒している。
「ええ。準備段階じゃない、これは“実働の印”です。」
夜宮は周囲の空気を読むように深く呼吸し、眉根を寄せた。
「魔力濃度が高すぎる。
これは……強化された人間の通った跡だな。」
その直後だった。
森の奥から、ゆっくりと複数の気配が滲み出る。
足音はほとんどない。
しかし、空気の密度が変わる。
境界粒子が周囲に“混入”してくるような、異様な圧迫感。
木々の影が揺れ、
彼らは現れた。
全員が人間の外見をしている。
だが、普通ではない。
皮膚の下で光の粒子が微かに脈動し、
瞳孔が僅かに振動するように揺れている。
人間の形をしているが、人間以上に静かで、空虚だ。
夜宮が低く呟いた。
「……共鳴戦士。
境界粒子を注入して肉体を強化された実験体か。」
霧亜は即座に臨戦態勢に入る。
その額には、うっすらと冷や汗が浮かんでいた。
美香は気配の異常さに圧倒され、言葉を失う。
レゾナントの一体が前へ進み出る。
無表情のまま、鼻先をわずかに震わせるような動作をした。
まるで、匂いを探しているかのように。
霧亜が気づく。
「……健太郎君の……」
夜宮が短く頷いた。
「界縁反応の“匂い”。
彼らはそれを追跡している。」
美香が小さく震える声でつぶやく。
「じゃあ……健ちゃんを狙って、支部の周りを――」
夜宮が言葉を遮る。
「ここで食い止める。」
レゾナントたちが、静かに間合いを詰め始めた。
足音はない。
だが、迫ってくる重圧だけが、確実な戦闘の予兆として肺を押しつぶしてくる。
境界を狂わせる者たちの実働部隊が――
ついに神流市へと侵入した。




