標的は「少年」と「健太郎」
戦略分析室のモニター群が、淡い青光を壁に散らしていた。
空気には、どこか金属めいた緊張が漂っている。
相沢班長が指先で画面を切り替える。
悪魔族侵入者の行動ログが立体投影で浮かびあがった。
「侵入個体の追跡解析ですが……どうにも気になる軌跡がありまして」
夜宮が顎に手を置く。
霧亜は腕を組んだまま、やや身を乗り出した。
相沢は画面に赤い点を示す。
「この地点。ハルマ・サークは、襲撃以前に何者かと接触しています。
相手の識別コードは……《レゾナンス》」
霧亜の表情が凍る。
「……教団と? 悪魔族が?」
「密約です。」
相沢の声は淡々としていたが、室内の温度がわずかに下がったように感じられた。
画面が切り替わる。そこには一本の契約文が翻訳付きで表示される。
――『界縁由来存在(少年)を引き渡すこと』
――『対価として、界縁技術の断片を提供する』
美香が息を呑んだ。
霧亜は唇を強く噛みしめる。
「少年は……儀式に使われるのですね?」
夜宮が視線を落とし、短く答える。
「おそらく。五界の壁を破壊する“触媒”として。
界縁存在そのものが境界を揺らす素材になる」
その言葉は刃物のように鋭かったが、感情は抑え込まれていた。
相沢が続ける。
「問題は、標的がもう一人いたことです。」
画面に新たなデータが浮かぶ。解析波形と、生体感応値のグラフ。
“第二標的:天城健太郎”
美香の肩が小さく震えた。
「ど、どうして……? どうして健ちゃんまで……?」
相沢はためらいなく説明した。
「境界干渉波への“異常に高い感応値”が検出されています。
少年と天城君の反応パターンは、同質と判断されたようです。」
霧亜が振り向き、夜宮を見る。
「……夜宮支部長。健太郎君は、まさか……?」
夜宮は表情を動かさない。だが、わずかに目を閉じた。
「界縁の反応者である可能性は高い。
本人は無自覚だろうが、教団にとっては“価値”にも“危険性”にもなる。」
室内が静まる。
誰もが、その意味するところを理解していた。
境界を揺るがす触媒が二つ。
一つは少年。
もう一つは――何も知らない、ただの少年であるはずの天城健太郎。
美香が小さく呟いた。
それは祈りにも似た声だった。
「……守らなきゃ。絶対に。」
夜宮はゆっくりと頷く。
「そのために、我々がいる。」
しかし彼の胸中では、別の思考が密かに動いていた。
――健太郎の“覚醒値”の上昇が、本部に察知される前に手を打たねばならない。
――教団だけが敵ではない。
その予感だけが、静かに冷たく膨れ続けていた。




