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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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33/111

戦闘後の余波

戦闘が終わり、神流市の山間地帯には、まだどこか“空気の厚み”のようなものが残っていた。

異界化が剥がれ落ちた後の街は、軽い震えを引きずる獣のように、ところどころで歪みを鳴らしている。


道路には亀裂が走り、街路樹は影だけを二重のまま引きずっていた。

しかし、幸いにも市民の被害は最小で済んでいた。

結界が破れかけた瞬間、美香の暴走結界が街区全体を包み、皮肉にも盾として作用したからだ。


「……はぁ……っ……」

美香は膝をつき、肩で呼吸をしていた。

魔力暴走の反動が、小刻みに指先を震わせる。


霧亜が駆け寄り、彼女の背を支える。


「もう力を使わないで。魔力炉心が不安定になってる。」

「うん……わかってる……でも……健ちゃんが……」


美香の視線が、少し離れた場所に倒れ込んでいる少年へ向く。


健太郎は意識が朦朧としており、呼吸は浅い。

だがその体表には、まだ微量の界縁粒子が漂っていた。

まるで肌から零れ落ちる光の灰のように——都市の光と混ざりながら宙に溶けていく。


夜宮は、一歩距離を置き、その様子を静かに観察していた。


彼の瞳には驚愕も焦りもない。

あるのは、冷徹な事実の積み上げを見つめる、古い研究者のような眼差し。


「界縁反応……まだ収束していないか。」

夜宮は呟き、周囲に残る波動を計測装置で測る。


空を見上げると、戦闘で開いた裂け目の残滓がまだ消えていなかった。

ほんの十数メートルの幅だが、ゆらゆらと光を湛え、風のない空に漂う歪みだけが、そこに“異界”の名残を示していた。


霧亜が夜宮へ顔を向ける。


「支部長……裂け目、消えませんね。」

「本部の転移網が近くまで圧をかけているのだろう。

放っておけば、あと数時間で消える。」


「来ると思いますか? 本部直属隊……」


夜宮はわずかに笑った。

その笑みには、諦観でも恐れでもなく、静かな覚悟の色があった。


「来るだろう。

だが、我々の“報告”が届く前に、健太郎の存在は……すでに世界へ示されてしまった。」


風が吹き抜ける。

裂け目の光がざわめき、遠くの雲の影が揺らぐ。


夜宮は言葉を続けた。


「本部は必ず動く。

彼らは五界の均衡を守るために、必要とあらば少年一人の未来など切り捨てる。

……だからこそ、こちらも動く必要がある。」


霧亜は息を呑む。

美香は苦しげに起き上がる。


しかし最も静かだったのは、健太郎だった。

意識を失ったまま、ただ微弱な界縁粒子を漂わせている。

その異質な大気が、周囲の空間をわずかに撓ませていた。


「健太郎と美香……二人の潜在因子は、今後の均衡の鍵になる。」

夜宮は裂け目を見上げながら、低く続けた。


「これは——一支部の問題では済まなくなる。

やがて、本部との対立は避けられない。」


裂け目の光が、まるでその言葉に応えるように揺れた。

残響だけを残し、少しずつ都市の空に溶けていく。


そして、静寂の中に新たな戦いの予兆だけが、確かに満ちていた。

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