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ガーディアン・リヴァース:境界を駆ける者たち  作者: 南蛇井


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32/111

本部介入と緊張の高まり

異界化が終息しつつある市街地には、まだ亀裂の残滓が漂っていた。

ゲートの縁は赤黒く脈動し、悪魔族の撤退を急かすように震えている。


撤退の直前、ヴィルゼルは振り返った。

その眼差しは、敗走のそれではない。

むしろ、未知への渇望と、忌まわしい手がかりを得た者だけが持つ深い愉悦が混ざった、危うい光。


「外側の子よ。また会おう。次は……境界の深部で。」


言い残して、悪魔族は裂け目の向こうへ消えた。

直後、ゲートは悲鳴のような金属音を残し、破れる布のように閉じていく。


戦場に静けさが戻ると同時に——支部全体に、鋭い電子音が鳴り響いた。


「……本部コード。緊急優先度、紅一。」

通信士の声が震える。


霧亜と美香が顔を上げる。

“紅一”とは、戦術ではなく“処置”を意味する階級の指令。

現場判断は原則として許されない。


通信機から流れた音声は、冷たく研ぎ澄まされていた。


『ガーディアン本部より全支部へ通達。

対象:市街戦区域にいる少年、識別名《健太郎》。

理由:潜在的界縁事案の疑い。

指令:即時収容。移送は本部直属隊が担当する。繰り返す。即時——』


「無視しろ。」

その声は通信をも圧殺するほど強く、揺らぎがなかった。


振り返ると、夜宮支部長が立っていた。

白手袋の指先には血一滴ついていない。

だがその眼は、すでに“どちら側にも属さぬ覚悟”を固めていた。


「支部長……本部命令です。拒否は——」

霧亜が言いかけた瞬間、夜宮は首を横に振った。


「健太郎は、まだ“自分が何者か”すら理解していない。

力の制御に失敗すれば、本人が最初に傷つく。本部の収容措置では、彼は実験対象だ。」


その毅然とした拒絶に、美香が息を呑んだ。


「……戦闘続行を選ぶのですか。」


「撤収ではない。現場の収束と保護を優先する。

本部は状況を把握しながら、あえて危険を許容した。

健太郎の力が、どこまで“外側”に傾くか……値を計りたかったのだろう。」


夜宮の声には、怒りの熱はなかった。

しかし、その理知的な静けさは、むしろ本部への深い不信を物語っていた。


霧亜は健太郎の横顔を見る。

覚醒後の静かな呼吸。

だが時折、その周囲の空間がごく微かに波打つ。


「夜宮さん……私、感じていました。」

霧亜が言う。

「この力は、本部が把握していないレベルです。だからこそ……」


「だからこそ、本部は連れ去りたがっている。」

夜宮はゆっくりとうなずいた。


上空では、支部の結界が再構築され、光のドームが市街地を包み直す。

戦闘は終わった。しかし緊張は、退く気配を見せない。


「本部直属隊が来る前に、収束と撤去を終わらせるぞ。

戦闘は勝利したが……これで事態が“終わった”とは思うな。」


健太郎は、夜宮の言葉を聞きながら、どこか遠いものを見つめていた。

自分の内奥で鳴り続ける、正体のない共鳴。

そして——“外側”という、聞き慣れぬ言葉の意味。


物語の緊張は、ここからさらに深く潜ることになる。

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