ゲート発生 ― 緊急出動
昼休みのチャイムが鳴り、教室のざわめきが一斉に広がる。
パンの袋を破く音、スマホを開く音、友人同士の笑い声。
六高の昼は、どこにでもある学生たちの昼休みの風景だ。
しかし――健太郎と美香の机の上でだけ、異質な電子音が鳴った。
ピッ……ピピッ。
二人のタブレット端末に、赤い帯の緊急メッセージが走る。
《緊急アラート:境界亀裂 Lv1 発生》
《地点:カムイ市・南河川敷(六高より0.8km)》
《ガーディアン見習い:最寄り班は即応せよ》
美香が息を呑み、画面を拡大する。
「……Lv1なのに、魔力圧が高すぎる。亀裂の“流入値”が上がってるわ」
「また妖精系か? この前もだったろ。河川敷ってパターンも同じだ」
「違う。これは……波形が複合的。少し嫌な感じがする」
彼女の目が鋭く細くなる。
周囲のクラスメイトは、二人の端末の異常な光量に気づくはずもなかった。
見習い用デバイスは光波長を調整しており、一般人にはただの通知画面にしか見えない。
美香が半立ちになり、健太郎へ短くうなずく。
「行くよ」
「あぁ」
二人は教室を出る際、松風先生に声を掛けた。
「先生、ちょっと……保健室行ってきます」
「おい、大丈夫か? 昼休みが終わったら戻ってこいよ」
「はい、すぐ戻ります」
形式上のやり取り。
本当は戻る気はない。
ガーディアン見習いは、発動したゲートが小規模の場合、最寄り班が一次対応するのが基本ルールだった。
廊下を抜け、校舎裏の旧管理棟へ向かう。
昼休みでもほとんど人影がない、見習いの“抜け道”だ。
扉を閉めると、美香は制服の胸ポケットから機密端末を取り出し、指先を素早く滑らせる。
「認証コード入力――旭川美香。カムイ支部見習い第18班、即応モード」
透明の立体パネルが彼女の周囲に展開し、ガーディアン用の簡易装備〈ライトギア〉が上書きされるように身体へ転写される。
青白く光る護符のラインが腕に沿って走る。
続いて健太郎も端末を操作した。
「坂上健太郎。同じく第18班。出動許可、確認」
黒を基調とした軽装防具が制服の上から重なり、彼の動きを制限しないよう自動調整された。
ガーディアンの装備は、十五歳以上の者にだけ許可されている。
魔力に耐えられる身体の成長段階が、そこからようやく安定するためだ。
「……急ごう。亀裂、広がってる」
美香が駆け出す。
健太郎もあとを追った。
旧管理棟を抜け、裏手の細い路地へ。
人通りのない場所で、二人は一気に速度を上げる。制服の裾が風を裂いた。
その瞬間――健太郎の肌が微かに粟立つ。
風圧。だが自然の風ではない。
境界の裂け目が揺れたときに生じる、空間の“たわみ”の感覚。
「……美香、今の感じたか?」
「感じた。やっぱり亀裂の拡大……予想より速い!」
河川敷は、もうすぐそこだ。
青空の下にあるはずの地点で、空気だけが違う密度で震えている。
二人の足はさらに加速し、六高の“表の世界”から、裏の任務へと跳び込んでいく。




