悪魔族グループ“ハルマ・サーク”侵入
神流市中心部。半異界化した街は、もはや「日常」の皮をかぶった異常空間だった。
道路はわずかに波打ち、建物の輪郭が二重に揺れ、光源は濁った残光を引きずる。空気は鉛のように重く、魔力濃度が限界目前まで膨張していた。
その上空に、乾いた破砕音が走る。
空間の裂け目が、まるで獣の口のようにぱっくりと開いた。
そこから、黒い影が雨のように落下してくる。
「……来たわよ。“ハルマ・サーク”」
霧亜が低く構えながら呟く。
最初に降り立ったのは、異様に長い角と鎧のような皮膚を持つ男。
輪郭がゆらぎ、体から黒炎の残滓が立ちのぼる。
悪魔族。ハルマ・サークの団長。
続いて、白銀の刃翼を持つ女悪魔。
そして中位悪魔の群れが、地面に影のように溶けては立ち上がる。
街に悲鳴が走った。
市民は異界化した景色の中で逃げ場を見失い、混乱が連鎖する。
「霧亜先輩、来ます!」
健太郎は前衛へ駆け出し、霧亜と肩を並べるように構えた。
手に汗が滲むが、体の奥底で何かが脈打っていた。
一方、美香は後方に展開した即席の結界陣の中心でタブレットを睨む。
「魔力濃度、街区単位で上がってる……っ、制御……重い……!」
異界化した空気の圧で、美香の魔力制御にノイズが走る。
結界の光が一瞬、点滅する。
ヴィルゼルの視線がふと健太郎に向いた。
その眼が笑ったように細まる。
「……匂うな。境界の気配だ。お前、“あちら側”の……」
霧亜が即座に前へ出る。
「こっちを見るな。標的は私よ、悪魔族」
だが悪魔たちは霧亜にではなく、健太郎へ一直線に向かってくる。
獲物を求めるように、境界の反応を追う獣の動きで。
美香は歯を噛む。
「やっぱり……健ちゃん、狙われてる……!」
街の揺らぎはさらに加速し、影は濃く、光は歪む。
異界の重圧が、確実に地上へ浸透している。
戦闘の火ぶたが、完全に切って落とされた。




