夜宮の独白
深夜の北東支部は、昼間とは別の顔を見せていた。
訓練場にかかる非常灯が淡く揺れ、その光が夜宮の背に長い影を落とす。
誰もいないはずの空間で、彼はただひとり佇んでいた。
静寂の中、息を吐くたびに胸の奥のざらつきだけが残る。
——本部が、動き始めた。
そのことを悟った瞬間、身体の奥に冷たいものが走った。
あの無所属の少年の消失。歪み続けるゲート。
そして、健太郎の体に生じ始めた“境界の揺らぎ”。
すべてがひとつの線につながってしまう気がしていた。
夜宮は拳を握りしめる。
護るべきものの輪郭が、誰に命じられるまでもなく浮かび上がる。
「健太郎……君の存在は、たしかに五界の秩序を揺るがすだろう」
彼は静かに、しかし確信をもって言葉を続けた。
「だが——それでも私は君を、“支部の隊員”として守る」
夜宮にとって、それは形式上の身分などではなかった。
無力な少年を拾ったわけでも、特別扱いをする意図でもない。
自分の手で導くと決めた者を、
他者の思惑に奪わせるつもりは毛頭ない、という決意だった。
夜宮はゆっくりと空を仰ぐ。
深夜の空は、奇妙なほど澄んでいた。
それは、まるで次に訪れる嵐を悟って息を潜めているようだった。
「……本部が何を企んでいても、だ」
つぶやきは、夜気へと吸い込まれていく。
そして夜宮は歩き出す。
嵐へ向かう者の、迷いのない足取りで。
——その中心には、天城健太郎がいる。




