本部の最終報告(支部閲覧不可)
防壁三重の下、アクセス権限最上位のみが入室を許される“無光室”。
そこでは数名の本部理論局員が無言のまま、最後の報告書に電子署名をしていた。
広げられたホログラムは、どれも歪んだ波形を描いている。
少年の消失記録、ゲートの暴発データ、そして——健太郎の体内で観測された“界縁粒子”の不規則な脈動。
「……すべてが、辻褄を合わせ始めたな」
理論局長が深く息を吐き、報告書の核心部分を読み上げる。
「対象少年——識別名《無属性個体X》。
分類:界縁由来存在(Border-Origin)」
続けて、別の局員が健太郎のデータを投影する。波形は少年のものとほぼ同期していた。
「天城健太郎。分類:界縁反応者(Border-Linked)。
両者の接触は、世界基盤の不安定化を促進する可能性が高い」
しばし沈黙が室内に落ちる。
その危険性は、時に世界の層そのものを割りかねない。
だが——それでも、接触させねばならない理由があった。
「……避けられん。界縁構造の解析には、この二つの“揺らぎ”が必要だ」
「意図的に、か」
「そうだ。接触は制御下で行わせる。無制御で起きるよりは遥かにマシだ」
局長が最終稿に指を滑らせる。電子ペン先が赤い線を引いた。
「最終結論を読み上げる」
無光室の空気がひときわ冷える。
「対象:天城健太郎は、
**管理対象E(境界不安定素体)**に分類。
以後、その行動・活動・接触者はすべて、本部が完全監視下に置くものとする。」
重々しい沈黙が落ちた後、局長が最後の指示を出す。
「北東支部には――知らせるな。
特に夜宮には、だ」
電子印が落とされる瞬間、報告書は暗号化され、光の粒となって封鎖された保管領域へ沈んでいく。
これで、本部は“動く”。
——天城健太郎を、世界の縁へ導くために。




