少年を追うのは“健太郎”
北東支部の警報が鳴り響いていた。
潜在ゲートの異常活性化。それは、ただの“揺らぎ”とは呼べない規模だった。
本部からの緊急通信が、支部長室に叩きつけられる。
《至急通達:天城健太郎をゲート前に連れて行け。
収容対象(無属性少年)の存在周波が、天城健太郎と強く同期している》
夜宮レイジは、硬い表情のまま端末を閉じた。
「……ついに、露骨に指示してきたな」
彼の声音には、怒りではなく“不信”が滲んでいた。
霧亜と美香は、すでに室内に駆け込んでいる。
霧亜
「本部が健太郎を……? 本気で、彼を利用する気なの?」
夜宮
「利用というより、実験対象だ。
だが、指示を拒めば支部に査察が入る。健太郎を別の名目で奪われる」
短い沈黙が落ちた。
その後、夜宮は決断するように口を開く。
「……俺が同行したいところだが、ゲート周辺の統制が必要だ。
霧亜、美香。お前たちで健太郎を守れ」
霧亜は力強く頷く。
「必ず。命に代えても」
美香は不安げに唇を噛んだ。
「健ちゃんに……変なこと、しないよね? 本部……」
夜宮は、二人の視線を受け止めて言う。
「護れ。
彼が“何者か”を知る前に、誰かに奪われることだけは……避けろ」
***
ゲート前。
空間そのものが振動しているような、低く響く脈動が、地面から伝わってくる。
健太郎は防護装備を整えながら、霧亜の方に視線を向けた。
「俺……本当に、行かなきゃいけないのか……?」
霧亜はヘルメット越しに彼を見つめる。
その瞳は迷いを押し殺し、不安と決意の両方が渦巻いていた。
霧亜
「あなたが行かなきゃ、少年はもう戻らない。
そして……今の健太郎にしか、彼の“行き先”を感じ取れない」
美香が、健太郎の腕を掴む。
「絶対に、ムチャはしないで。
あの子が何者でも、健ちゃんは健ちゃんなんだから」
健太郎は、二人の顔を順に見た。
恐怖はあった。
だが、あの少年が自分を見たときの視線が忘れられない。
——ようやく、見つけた。
あの言葉が、頭にずっと引っかかっている。
健太郎
「……分かった。行こう。
俺が“呼ばれた”ってんなら……確かめるしかないだろ」
霧亜はそっと近づき、健太郎の前に立つ。
彼女はヘルメットのバイザー越しに真剣な眼差しを向けた。
霧亜
「健太郎——絶対に、離れないで。
あなたが消えたら……私は……」
言葉を結べず、唇を噛む。
健太郎は、ほんのわずかに微笑んで答えた。
「大丈夫。離れないよ」
だがその瞬間、ゲートの鼓動が一段と強まり、空間の色が反転する。
まるで——
“行く先を示すように”、道が開かれたかのようだった。
そして、少年の残した言葉がゲートの脈動に重なる。
——呼ばれたから、行く。
健太郎は、深く息を吸い込んだ。
霧亜、美香の二人が彼の背に寄り添い、三人はゲートへと踏み出す。
物語は次の段階へと進み始めていた。




